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20、言葉は大切
王妃side
リアムが連れてきた、お客。ソフィというご令嬢。まさか、あの子が人間を連れてくるなんて思いもしなかった。
その前に人間が獣人を助けるなんて、思いもしなかったけれど。その彼女は、たった今1人で、此処に来て私達に頭を下げている。
敵地に来たのと同じ状況であるにも関わらず、素晴らしいわ!私は、この時⋯既に、見初めていたのかもしれない。
「お顔を上げて下さい。貴女のような人間の、お嬢様が私達の大事な息子を助けて下さるとは⋯ありがとうございます。ソフィ・カンタレラさん?」
「は、はいっ!」
良いお返事ね。彼女が私達を見つめる目は⋯それは、それは澄んでいた。人間でも、このような瞳をするのね。
「私は当然の事をしただけです。何も特別な事はしていません。それに、私もリアム様に助けて頂きましたから」
「ほぅ⋯⋯もう名を呼び合う仲か⋯。なぁ?リアム」
「うえっ⋯と。そ、それは知らんとね」
あの子が⋯⋯あんなに動揺しているわ。滅多に崩さないのに⋯。
「あらあら。動揺しているのが丸わかりだわ」
私は、ついつい可愛い息子をからかってしまう⋯。良くないのは分かっているのだけれど。
「そうだな。そこまで許しているとは──」
「あぁあああ────!!!もういい!俺の事なんかどうでもいい癖に言うな!!」
私と夫は盛大に固まりましたわ。リアムの事をどうでもいいと思ったことなど1度もないわ。と言いたいけれど⋯あまりのショックに言葉が続かない。
そう毎度これは起こる事なのです。
何故リアムがそう思うようになったのかは、分からないのだけれど⋯。
「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」
「ほらな、何も言わねぇ」
「リアム様⋯⋯ご両親が、何も言わないのはショックのあまり放心状態になっているからですわ。そ、そうですわね⋯お2人がお好き!と言ってみて下さいませっ⋯!」
えぇ、貴女の言う通りよ⋯。
「えっ!?おいが?!」
「えぇ!」
「お、おいは⋯⋯、2人が⋯⋯好きたい⋯」
初めて──息子から好きと言われたわ⋯!!!
「「!?」」
愛する夫と目を合わせてしまう。どうしましょう!!息子が好きだと言ってくれた、あの瞬間を何かに残せないかしら?!!
そして、パッと目に付いたのは。
血。
「「「!?」」」
「「「血、血がァ!!!」」」
彼女は、鼻血をだしており⋯⋯思わず叫んでしまったわ。
「ソフィ!!」
そして息子が、彼女を心配し──難なく抱きとめた。この子は、ソフィに魅了されたのね。分かるわ。私も、そうだもの。
そうして、息子に部屋へ運ぶように指示を出し、そのすぐ後に、リアムと客人であるソフィがいなくなってしまい騎士達を総出で捜索を行わせたのだけれど。
行方が分からない。
来て早々、こんな事になるなんて───!
どうしたら⋯!!リアムは心配していないけれど、ソフィちゃんに何かあると⋯色々と面倒が生じてしまう。何としても、見つけてもらわないといけない。
それもそうだけれど、メイド達には──
ちゃんと償って貰わないとね。
私には、能力がある。監視能力。この王宮の隅々まで、見ることも出来るし遡って見る事も可能。
ただし、遡ることが出来るのは1週間前まで。後は異変だとか、とても有益な情報は勝手に選んで見せてくれる。
この能力を知っているのは──私の夫だけ。
私は、この能力⋯魔法ね。これを使って、ソフィちゃんの部屋を見た。人間の貴族でも、お掃除するのね、意外だわ。
あら?ソフィちゃんが気づかないうちに、メイドたちが入ってきた⋯?3人の顔は、醜く歪んでいた。
もう、確定じゃない。
まさか、信用していた者達が、このような事を仕出かすとは───。
とりあえず、どこからどうなったのか全て見たので、捜索隊に情報を伝えるように言いつける。
そうして⋯⋯次の日の朝。
───
──
─
ようやく、2人を見つけることが出来た。
何でもソフィちゃんは、獣人の村人達と仲良くやっているようで⋯合格だわ。そして、人を助けたとも報告が入った。
それから、リアムと共に街で、ゆっくりしてきたみたい。とりあえず、護衛が見守っていてくれるから良しとするしかないわね。
そうして⋯2人は無事、城へと帰ってきた。現在、ソフィちゃんは目の前にいる。貴族らしからぬ格好には、なっているけれど⋯更に好感がもてたわ。
「只今、戻りました」
「よくぞ、無事に帰って来てくれた」
「ソフィ、貴女もご無事で良かった⋯⋯」
「まさか、騎士より先に⋯お前が連れて帰ってくるとはな」
と言いつつ、見ていたのだけれどね。
「己の義務を果たしたに過ぎません」
見てたくせにと顔が言っていた。
「それだけでは無さそうだが。客人に何事もなく良かった⋯」
「あ、あの!私は大丈夫です」
何が大丈夫なのか、分かっていないわね?
「いいや。すまないが、この者たちを呼ぼう。さぁ入ってこい」
夫が3人を呼ぶ
「さて、此処に呼んだのは、何故か分かるな」
「「「はい⋯⋯⋯」」」
そう、嘘はつけない。証拠が、あるのだから。
「何故、客人のソフィ殿が⋯突然居なくなったか。説明してもらおうか??」
「そ、それは⋯⋯」
しどろもどろではあるけれど、話す気はあるようね。
「あの⋯発言をお許し下さい。王様、この方達は何もしていません。私は⋯たまたま壁を押したら、その壁が回転扉だったらしく真っ逆さまに落ちていっただけなのです。なので、私の不注意ですし。この方達が罰せられる必要も全く御座いません」
「「「⋯⋯⋯⋯!?!?」」」
あら?この子⋯この3人の罪を隠蔽したわ。勿論、私の夫が黙ってるはずはないのだけれど。
「だが⋯!!」
「本当に、たまたまですので。それに、この事があって、この国を知ることが出来ました。街に住む人達も、街から離れた”町”に住む人達も皆さん素敵でした。それを知れた事が何よりの感謝と言いますか。来た甲斐が有ると言いますか⋯⋯」
ふぅん⋯このような人間も、いるのね。
「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」
私と夫は、顔を見合わせて頭を下げた。
「!?!?⋯えっ!?頭を、あげて下さい!!」
「俺からも」
「えっ!?リアム様?!」
息子もちゃんと頭を下げたらしい。
「私には、頭を下げられる理由も御座いません。ですから、お顔を上げて下さいませ。お願い致します」
メイド達も改めるでしょう。
こうなれば⋯⋯⋯もう、やるしかないわね?
愛する息子を呼ぶ。
「⋯⋯リアム。ちょっと、こちらへ」
「はい。お母様」
「あの子を逃してはダメよ。必ず落としなさい」
「えっと──その⋯既に求婚されているのですが⋯」
「なんですって?!なら、早く婚姻を取りつけなさい!!」
「でも、彼女には、彼女の国の王子と婚約を結んでいまして。婚約破棄すると3年ほど前から、ソフィは教育を放棄しているようで⋯⋯」
「それは事前に調べたの?」
「はい⋯⋯⋯。この国へ連れてくる前に、一通りは」
「なら───早く。こちらのモノにしないとね」
私は、うっすらと笑みを浮かべた。
条件として"アレ"がないけれど、それを省いても人柄もいい。逃してはいけないわ。その直後、リアムからある事が伝えられた。
─────
───
ソフィちゃんたら、大手柄ね⋯!!
小さな村の不正を暴いたこと。すぐに、例の件の貴族の元へ兵士を向かわせ、家宅捜査から事情聴取をするまでもなく⋯彼らは自ら自白した。
それはそれは、とても青い顔をして自白してくれたわ。ふふふふ⋯⋯これは1種の催眠術が、かけられているわね。それだけでは無さそうだけれど。
とにかく⋯私は、彼女のことを大変、気に入ったのよ。
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