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キヨラが来てから、二週間が過ぎた。
いまだに毎晩聞こえる、キヨラの涙混じりの寝言に、私のむかつきは最大限に高まっていた。
私たちの寝床である押入れからは、いつも柱に貼りついたカレンダーが見える。
けれど何日か前から、そのカレンダーが床に落ちていた。
押入れの下の段から這い出たキヨラが、この日、それをつまみ上げた。
「これ、数日前から落ちてたわよね。あなたが落としたの?」
「さあ。地震でもあったんじゃないか」
まだ横になっている私の、あくび混じりの言葉を、キヨラは無視して言ってきた。
「……あなた、あたしより二週間早くここに来たって言ってたわよね。カレンダーがなくたって日数くらい数えてるわよ。今日でそこからプラス二週間、ちょうど一ヶ月ってわけね」
「それがどうかしたのか?」
キヨラは押入れの前に立った。
寝転んでいる私のすぐ目の前に、キヨラの顔がある。
「……この押入れって、私の前にも誰かもう一人いたのよね? この部屋、二人分の生活感があるもの」
「いきなりなんだよ」
「一ヶ月前にあなたがここに来た時、部屋にはもう一人いたんでしょう。二人でこの押入れを使っていたんだわ。その人は二週間前にいなくなって、あなた一人になったところに、前の人と入れ替わりで私が来た。そうでしょう? その人は、どこに行ったの?」
「知らないよ、そんなの」
「その、前の人の失踪後――私が来てから、今日でまた二週間。今日、なにかが起きるのね? だから、日付を意識させないためにカレンダーを落としたの? 捨てようにもこの部屋にはゴミ箱がないし、外には捨てに行けないものね」
体を起こそうとした私の肩を、キヨラが強くつかんだ。
「教えてよ。今日、なにが起きるの?」
まあいいか、もう。
私はキヨラの手を払って言った。
「……出荷だ。二週間に一人ずつ、無理矢理捕まえられてどこかに連れていかれる。どこにかは知らないけど、たぶん幸せにはなれない」
「……出荷? 私たちの? ……そんなことだろうと思った。こんなところにずっと閉じ込めておいたって、なんの得もないもの」
「そうだ。私たちはそのためにここにいる」
「ふうん。飼育小屋ってことだ。で、下の段にいる子から出荷されるってわけ。だから上の段を譲らなかったのね」
「なっ!」私はのけぞった。「なんでそれを!」
「下の段の毛布、あなたのにおいがしたもの。わざわざ上に移った理由、ほかにある?」
「……寝心地がいい」
「出荷されるのに比べたら、寝心地くらい我慢するでしょう」
「くっ……お前が、そんなに切れ者だとは」
「そんなのいいから、代わってよ。あたしが上に行く」
キヨラが上の段に上がってきた。
私を両手を突き出して、キヨラを押し返す。
「下りろ!」
「危ないじゃない! 順番守りなさいよ、あなたが先に出荷される番でしょ!」
食い下がろうとするキヨラを思い切り押して、押入れから落とした。
「大人しく下にいろ」
「あんた……」
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