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アパートの外に車が止まっていた。
私は肩から降ろされる。
地面に着いた私は、
「私、こっちの人と一緒に行きたーい!」
と言って、アパートのドアに鍵をかけた黒服にすり寄った。
黒服は、物も言わずに私を引きはがした。
その瞬間、幼いころに身につけていたスリの技術で、鍵をスリ取る。
そして、黒服たちの目を盗んで、私のポケットに入れていた黒い紐を取り出した。カレンダーを吊るしていたやつだ。
これをしっけいしたので、カレンダーは床に落とさざるを得なかった。
そして、ポケットからもう一つ、ヤモリのモグコを取り出し、黒服たちから見えないようにその首に紐で鍵を結わえつけた。
モグコは出かけても押入れに戻ってくるので、捕まえるのは簡単だった。
キヨラとの取っ組み合いでつぶれなくてよかった。
モグコを地面に放すと、すたこらさっさと、鍵を引きずってアパートに戻っていく。
アパートのドアの下には、隙間がある。あそこから中に入り込めば、押入れにいるキヨラにこの鍵が渡るだろう。
ドアは鍵があれば内側から開けられる。
うまく逃げろよ、キヨラ。
両親に会えるといいな。子供と親を引き離すようなやつは許せん、お前の寝言を聞くたび黒服どもにむかついたぜ。
空には月が出ていた。
私はそれを見上げる。しばらく立ち止まっていた。
黒服がいらつきながら、「早く車に入れ」と言ってきた。
「はあい」と答えて、開いたドアの内側に向かってかがんだ時、後ろのほうで
ばたん
と音がした。
私は振り向いた。黒服たちも振り向いた。そして全員驚愕した。
アパートのドアが開き、そこにキヨラが立っている。
モグコが早々にたどり着いたようで、キヨラの手には鍵がキラリと光っていた。
いや。ばか。お前。今出てきたらだめだろ。
黒服たちが慌ててアパートへ走り出す。
キヨラも突進してきた。
そして、黒服たちの股間を次々と蹴り上げ、瞬く間に倒していく。
あっという間に私のところまできたキヨラは、私の手を取り、走り出した。
道路へ出る。
「行くわよ!」
「ど、どこへ? ていうかキヨラ、お前なんであんな強いの?」
「あたしいいところの子だから、護身術で空手習ってたの! 空手が地上最強って本当だったのね!」
「いや、まあ、股蹴るのが空手かって言うと、どうかな」
その時、すぐ目の前に、赤信号で停車していた軽トラックが走り始めるのが見えた。
「あなた、あれに乗るわよ!」
「本気かよ!?」
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