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キヨラと二人、私は軽トラックの荷台に乗り込んだ。
運転手は気づかないのか、ブレーキも踏まずに走っていく。
地面に倒れ伏した黒服たちと、アパートが遠ざかっていった。
「あなた、なに考えてるのよ……私はてっきり……」
「あーはいはい、悪かった悪かった。ていうか、順番とか言ってたのお前だろ」
「そ、それはそうだけど……。その前に、あなたいい加減名前どうにかしてよ。いつまでも『あなた』じゃ呼びにくいんだけど」
「えー、じゃあ、モギコ。モゲコやモグコよりお姉さんという感じで」
「……再考の余地があると思うわ」
「最高の余地がある? じゃあもう少し考える」
荷台から、また空を見た。
空は暗い。
月は明るいが、とても孤独だ。
数えきれないくらいの星がどんなに輝いても、遠すぎて寂しい。
「私たちって、これからどうなるんだろうなあ。あいつらが追いかけてきて、捕まったりすんのかな」
「捕まりはしないでしょ。名前も分からない子供一人、無理して探すとは思えないもの」
そう言われればそんな気もする。
「それでも、ちゃんとまともに生きていけるのかなあ」
「いけるでしょう。あたしたち、なにもあきらめる必要なんてなくない?」
「……キヨラは帰る家があるのか?」
「分からないわ。まずは、パパとママを探すところからね。……一緒に行く?」
「行く」
軽トラックがスピードを上げた。
風が巻いて、頬をかすめていく。
「私はあのアパートを、こんなふうに出られるとは思わなかったぜ」
「あんなところ、出てって当然よ。自分が行きたいところに行って、住みたいところに住みましょう。出荷なんて冗談じゃないわ、これは私たちの、私たちによる、私たちのための、しかるべき――」
キヨラが万歳をした。
私もつられて同じポーズをとってしまう。
「――お引っ越し!」
終
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