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うちに新しい住人が来たので、私は引っ越しをすることになった。
引っ越しといっても、平屋のアパートの中の押入れの、下の段から上の段にだ。
新しい住人は、下の段に入った。
新入りが下、私が上というのは、順番からすれば当たり前のことだ。
ここは私と新入り、二人きりで暮らす部屋だ。押入れの中がそれぞれの寝床である。
下の段は、ホコリやゴミが転がってくるし、誰かが外の廊下を歩いていたりするとその振動がバンバン伝わる。
とても寝心地が悪いのだ。
押入れの中は、上も下も、薄い毛布が二枚ずつある――というか、それしか入っていない。掛け布団と敷布団である。
この部屋に連れてこられた子供は、押入れを自分の部屋として与えられて、トイレ以外はそこから出ずに生活するように厳しく命令される。
誰に命令されるかと言うと、黒い服を着た顔の怖い大人たちだ。
「あのう、こんにちは」
そう言って新しく来たのは私と同じ女の子で、歳も同じくらいだった。中学生にはなっていないと思う。
白い服を着ており、痩せていて小さい。
私と同じで、どうせ親もいなければ、自分の名前も年齢も分からないのだろうと思い、私は彼女に「モゲコ」という名前を与えてやろうと思った。
少し前にこの部屋で友達になったヤモリには、「モグコ」という名前をつけた。その妹分というわけだ。
これは気に入るだろう。そう思った。
しかし。
「あたし、そんな変な名前じゃありません。嬉四羅っていう名前があります。……あなたのお名前はなんていうの? 家族の人はいないの? なんで、押入れで暮らさなくちゃいけないの?」
「そんなもの、私が知りたいよ。いいからとにかく、下の段に入んな」
ここに来てから会った大人の中に、私の知り合いは一人もいない。
なにも分からないまま、ただここで暮らしているのだ。
「いいけど、あなたちゃんとお風呂入ってる? 変わったにおいがするわよ」
こいつとは知り合いにはなったが、仲良くはなれそうもない。
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