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新居が近隣と言うこともあり、娘と夫は必要なものを買い揃え、少しずつ互いの家に荷物を取りに行った。
娘のお腹は少しずつ大きくなっていく。
故に、我が家の荷物は妻が少しずつまとめては、夫の車に積み込んでいた。
少しずつ、娘の荷物が無くなっていく我が家。
娘の部屋も空っぽになった。
「この部屋……何部屋にしましょうか?」
妻が、少しだけ寂しそうな表情で私に言う。
「……ベッドと机は、置いていくのか?」
「新居には新しい家具を入れたそうですよ。」
「……だったら、ここはアイツの部屋にしておけばいいだろう。いつ帰ってくるか分からないんだし。」
「まぁ、縁起でもない。」
妻がクスクスと笑う。
私は、この部屋はずっとこのまま残しておきたかったのだ。
娘が幼い頃からずっと使ってきたこの部屋。
私と喧嘩をするとこの部屋に閉じこもって鍵を閉め、その度に私は鍵などつけない方が良いとぼやいた。
一生懸命勉強する娘に深夜、不格好なおにぎりを差し入れたこともあった。
大学の合格発表は、この部屋で一緒にパソコンを覗き込んで確認した。
「もう……いないんだな、アイツ。」
思い出を辿る度、私は寂しくなってしまった。
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