桜前線

1/16
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
この春、娘が家を出ていく。 24年間、手塩にかけて育ててきた娘。 彼女が、1年ほど付き合った男と結婚した。 「お父さん、結婚しようと思うんだけど……。」 それは、突然のことだった。 今まで、付き合っている男がいるということも知らなかった私は、そんな娘が結婚するということに驚いた。 「お前……彼氏いたのか?」 「うん……付き合って、もう1年になるよ。」 知らなかった。 来春で定年を迎える私は、もう仕事の量もそれほど多くなかった。 引継ぎの段階。 後進に後を託し、隠居をする準備を着々と整えている、そんな段階であった。 定年を迎えたら、結婚前の娘と妻と、家族水入らずで旅行にでも出かけよう、そう思っていたのだが……。 「お父さんは仕事の事ばかりで、家族のことを全然顧みない人ね。」 そう、妻が言っていたのを、今になって思いだした。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!