桜前線

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倉庫の中からは、娘のおもちゃや自転車が出てきた。 初めて自転車に乗れた時の、娘な晴れやかな笑顔。 友達よりも上手くなりたいと、庭で暗くなるまで練習していたフラフープ。 一輪車も練習したっけ。 それらすべてが、倉庫に残っていた。 「処分しようとは思ったんだけど……。」 妻が、言葉を濁す。 きっと、私と同じことを考えていたのだろう。 傍から見ればガラクタに見えるこの倉庫のモノたちにも、私たちにとっては大事な思い出の残った宝物なのだ。 「アイツが捨てるって言ったら捨てよう。それまでは……残しておこう。私たちはもう、倉庫に入れるほどのものを必要としないんだから。」 「そうですね……。」 娘は元気に近隣で暮らしているのに、なぜこんなにも寂しくなってしまうのか。 それはきっと、文字通り『親元を離れてしまったから』なのであろう。 たかが引っ越し。 しかし、送り出す方からすれば、それは切ない見送りなのだ。 押し入れの中からは、何度も直した浴衣が出てきた。 宝物だからと娘が隠した宝箱も出てきた。 簡単に開いた宝箱からは、その辺に落ちているような綺麗な石が出てきた。 さらにその奥に、小学校卒業間近の頃の作文が出てきた。
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