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「お久しぶりです」  そう声をかけると彼女が振り返る。 「あ、お久しぶりです」  覚えていてくれた彼女が、去年と変わらない笑顔を向ける。  計算された軌道で花びらが舞うと、彼女が言った。 「きれいですね」  あなたのほうが、なんてありきたりな台詞が言えるはずもなく、嘘をつくこともできず、ただ黙ることしかできなかった。 「お仕事大変じゃないですか?」  彼女はやはり美しかった。  姿形だけではなく。心が。 「ええ、まあ」  そんな曖昧な返事に対しても、彼女は笑って応えてくれる。  気がつけば日が傾きはじめていた。  彼女との時間はあっという間に過ぎていく。  沈黙の一時もあったが、それすらも愛おしく感じた。 「それじゃあ、また」  彼女が言った。 「ええ、また」  不明瞭な約束ではあるが、自分にはこれで十分だった。  桜の幹のRGB値が変わる。  これもまた人が美しいと感じる色合いなのだろう。  彼女も美しいと思うだろうか。  彼女のことをもっと知りたい。  彼女が感じる"美しさ"とはなんだろうか。  0と1の世界では"美しさ"を定義できない。  自分には共感できない。  美しさを知るために、彼女を知るために、データを集める必要がある。  ウェブ上に存在するいろんな画像をかき集めた。  それを順に表示して、ただ「美しい」かどうかを選択するだけのアプリを作った。  次に会ったときに。  会うのは桜の下でと決めていた。  それだけですでに、来年の春が待ち遠しくなった。
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