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 普段馴染みのある数の表記といえば、十進数だろう。  九までを一桁で表現し、十になったら次の桁に進む。  九十九までを二桁で表し、百になったら100になる。  十進数が基本の概念として定着しているのは、人の指が十本だったからと言われている。  人間が生み出した人間のためのシステムにすぎない。  対して、コンピュータの世界で使われるのは二進数だ。  零と一のみを一桁で表現し、二になったら次の桁に進む。  十進数で表すところの2は、二進数では10となる。3は11で、4は100だ。  つまり二進数は、たくさんの1と0――ありかなしか、回路的には電気がOnかOffか――のみで構成されている。  単純で明快。  数が大きくなると表記が長くなる問題さえ除けば、素晴らしいシステムだ。  この二進数で例えるなら、彼女と出会ってフラグが立ち、再会してひとつ繰り上がった。  声をかけてフラグが立ち、プロポーズしてまた繰り上がった。  そんな話を聞かせると、彼女は呆れ顔ひとつ見せずに、いつもの笑顔をくれる。 「おもしろいですね」  その言葉を聞きたくて、自分の趣味を饒舌に語った。  ただ喋るということが幸せで仕方がない。  感情というブラックボックスをまるごと取り替えられたかのように、自分が自分じゃないかのように思えた。  それを不快にも思わなかった。  彼女とは、桜が咲かない季節にも会うことにした。  付き合うということは、そういうことのはずだ。  ただ会って話をするだけ。  触れることなどできはしない。  それだけで十分だった。  それでも次の春。  あの花を見ていると不思議と酒を飲みたくなり、グビッと一杯あおった。  酒というよりは雰囲気に酔ったのかもしれない。  ぼんやりした頭で、もう一度あの台詞を口にした。 「結婚してください」  彼女の顔はいつだって微笑みをたたえていて、その頬はあの花のように色づいている。 「はい、よろしくお願いします」  ああ、こんな日が来るなんて。  視界がにじむ。  これは酒のせいかもしれない。  かすむ桜が美しく見える。  これは彼女のせいかもしれない。  こんな自分を変えてくれた人。  唯一無二の、かけがえのない女性。  彼女といつまでも共に。  そう誓った。
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