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3rd:転ばぬ先の杖
缶ジュースをゴミ箱に捨ててバス停に向かう。
日向子は女友達と約束をしているらしく、僕は駅前の本屋に用事があった。バスの終点になるS駅前までは一緒だ、そこからは別々になる。
「本屋でどんな本を買うの? エロ雑誌?」
「ばか。エロじゃなくて申し訳ないね、健全な小説だよ。この前メイクした俳優さんお勧めの本。桜の知識が深まるだけじゃなくて感性が磨かれて良いらしいんだ」
「へぇ。そうなんだ」
特に興味なさそうな返事とバスが到着したから"恋愛の感性が"と続けるのは控えた。
ドアが開きICカードを取り出す。と、その時、車内で一悶着が起きる。
「ちょっと運転手さん、さっき降りたお婆さんが杖を忘れて行ったよ! 困るだろうから何とか呼び止めてあげられんか?」
「お気持ちはわかります。ですが時刻通りの発車になりますので、遅らせるわけには」
日向子と顔を見合わせた。僕は急ぎではない。
「日向子、先に行ってて」
「え? あ、うん」
ーー新しい恋も、先に行っててよ。
「また今度ね、勇翔」
運転手さんに声を掛けると、後方座席の男性から品のある杖を受け取った。
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