記憶

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 大学が始まり、私は大学生活を楽しんでいる。友人もできたし、テニスのサークル活動も楽しい。時には地元の友人と会ったりもする。そのたびに、変わったね、と言われる。実際、高校生の頃は大人しく控えめな性格だったけれど、今の私は、とても明るくなった。まるで別人みたい、と言われる。私はそうかな、と笑って答えるけれど、でも、そうなのだ。私は、別人になってしまったのだ。  少しずつ私の記憶は、別の誰かの記憶で占められていった。それが誰なのかは分からない。おそらく、私の前にあの部屋に住んでいた人なのだろう。その人の記憶は次第に増えていき、その人の普段の生活、そしてその人があの部屋からいなくなり、その後どうなったのかも、その記憶から分かってきた。けれど、分かってきただけで、どうしようもなかった。分かってきた頃には、私の身体を動かすのは、私ではなく、その誰かになってしまっていたからだ。何故かこの身体に私の意識だけは残っているから、こうして考える事はできるけれど、私にできるのはそれだけだ。  私の身体は、別の誰かのものになってしまった。その誰かは、私の記憶を私のものだと分かっているのか、勘違いして自分のものだと思い込んでいるのか、それは分からないけれど、私の家族や友人とも、親しくやっている。本来の私よりも幸せそうで、だから私は少しずつ、本当の自分が、こうして考えている自分なのか、身体を動かしている誰かなのか、どちらなのか分からなくなってきている。  最初のうちは、いつまでこんな状況が続くのか不安だったけれど、次第に慣れてきた。そして慣れてくると、意外とこれはこれで幸せだというふうにも感じるようになった。そんな毎日を過ごしながら、私は時々考えるのだ。引っ越しをして会わなくなった人に久しぶりに会うととても変わっていた、という事があるけれど、それはもしかしたら、私みたいに、本当に別の人に変わってしまったのではないだろうか。
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