ある晴れの国

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「お姉さん、お城の方向、わかりますか?」  笑いを含んだからかい口調に多少むっとしながら、私は目の前のでかでかとした看板の文字を読み上げた。 「テッチャン、歓迎、だって」 「僕、テッチャンじゃないですよ。話逸らさないでください」  そう言うのは、私よりも大人びているような後輩である。何が楽しくて、津山に着いて早々、方向音痴と弄られねばならないのか。それなら貴方が案内しなさいよ、と言いたいところをこらえて……いや、と私は思う。そこは、わからないふりをしてあげようと。 「まあ、桜は逃げませんし、迷っても大丈夫ですよ、ゆっくり行きましょう」  岡山は晴れの国というだけあって、雨男が闊歩しても、依然、天気は上々だった。なんだかんだ、結局は先に立って歩いてくれる彼は、優しいし頼もしい。私はいつの頃からか、それを知っていた。認めていなかっただけだ。  陽気の中を二十分と歩けば、小高い丘陵にぎっちり巧みに積まれた石垣、そこに覆い被さる立派な桜雲が立ち現れた。 「史跡、津山城跡!」  そうそう、これが見たかったのだ。 「お姉さん、楽しそうですね」 「そうでしょ?」  早くおいで、と彼を手招きする。私はもうこれからの季節を知っている。ずっとそう思っていたのだ。岡山の春は、まだ始まったばかりだけど。
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