お花見

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 久しぶりに友人から連絡があった。  花見に行こうと言う。  野郎同士で花見かよと俺は言ったが、どうもやつの様子に違和感があったので、行くことにした。  何か話しでもあるのかと思ったが、先刻から少し浮かない顔をして、舞鶴公園周りの濠っぷちを歩きながら、時々桜を見上げるだけだ。  風が吹くと桜の花びらは上手い具合に風にのり、濠の水面には少しずつ花筏が出来始めていた。  やつから話しを切り出しそうにもないので、俺から聞いた。 「何かあったのかよ?」  それから何秒かしてやつはうーんと唸ると、話しをやっと始めた。  こいつが高校の時に好きだった同級生が、先日結婚したらしい。  今でもたいして変わらないが、その頃は今よりもっとこいつはシャイだったので、その彼女に告白なんか出来なかった。  それは俺も同じクラスだったのでよく知っている。  案外上手くいきそうな気がしていたので、卒業するまで、俺はさっさと言えばいいのにと思って見ていたが、ダメだった。  それが結婚の報告を受けて、今更失恋しやがった。 「バーカ」  俺は言った。 「うん」  やつは頷いた。 「今更、もういいじゃねーかよ」 「うん、もういいんだけどさ」  なんだよ?と聞くと、やつは続けて話してくれた。  どうやら、彼女はお見合いアプリで知り合った男と結婚したらしい。  たまたま出会って恋に落ちたんじゃなくて、恋に落ちるために出会いに行ったやつと上手くいったんだそうだ。  人の運命なんて判んないものだな。  やつは呟いた。 「バーカ」  俺は言った。 「せっかくの運命の出会いを、棒に振りやがって」 「だな」 「だから言えって、俺が言ったのに」 「本当だな」 「今更だよ」 「今更だな」  また風が吹いて、感傷的に花びらが目の前を通り過ぎていく。 「時代だよなぁ」  奴が呟いた。  思えば今歩いているこの遊歩道は、高校の通学路の一部だ。  だからここに来たかったのかと、俺はため息をついた。 「仕方ねえなぁ」  俺はやつの背中をバンッと平手で叩く。 「昼飯奢るよ」 「ラッキー」  やつは笑った。
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