3人が本棚に入れています
本棚に追加
久しぶりに友人から連絡があった。
花見に行こうと言う。
野郎同士で花見かよと俺は言ったが、どうもやつの様子に違和感があったので、行くことにした。
何か話しでもあるのかと思ったが、先刻から少し浮かない顔をして、舞鶴公園周りの濠っぷちを歩きながら、時々桜を見上げるだけだ。
風が吹くと桜の花びらは上手い具合に風にのり、濠の水面には少しずつ花筏が出来始めていた。
やつから話しを切り出しそうにもないので、俺から聞いた。
「何かあったのかよ?」
それから何秒かしてやつはうーんと唸ると、話しをやっと始めた。
こいつが高校の時に好きだった同級生が、先日結婚したらしい。
今でもたいして変わらないが、その頃は今よりもっとこいつはシャイだったので、その彼女に告白なんか出来なかった。
それは俺も同じクラスだったのでよく知っている。
案外上手くいきそうな気がしていたので、卒業するまで、俺はさっさと言えばいいのにと思って見ていたが、ダメだった。
それが結婚の報告を受けて、今更失恋しやがった。
「バーカ」
俺は言った。
「うん」
やつは頷いた。
「今更、もういいじゃねーかよ」
「うん、もういいんだけどさ」
なんだよ?と聞くと、やつは続けて話してくれた。
どうやら、彼女はお見合いアプリで知り合った男と結婚したらしい。
たまたま出会って恋に落ちたんじゃなくて、恋に落ちるために出会いに行ったやつと上手くいったんだそうだ。
人の運命なんて判んないものだな。
やつは呟いた。
「バーカ」
俺は言った。
「せっかくの運命の出会いを、棒に振りやがって」
「だな」
「だから言えって、俺が言ったのに」
「本当だな」
「今更だよ」
「今更だな」
また風が吹いて、感傷的に花びらが目の前を通り過ぎていく。
「時代だよなぁ」
奴が呟いた。
思えば今歩いているこの遊歩道は、高校の通学路の一部だ。
だからここに来たかったのかと、俺はため息をついた。
「仕方ねえなぁ」
俺はやつの背中をバンッと平手で叩く。
「昼飯奢るよ」
「ラッキー」
やつは笑った。
最初のコメントを投稿しよう!