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教職部屋の古い資料を漁るマゲイルは、自身の記憶を辿っていた。高等教育部一期の卒業論文と、それを引用した魔術師の論文の記憶。"呪解陣が消失反応を示す封印陣の種類の特定とその解法"だった気がする。その論文をベースに再検討した魔術師もいたはずだ。殆ど触れることのない角の発掘をし、それらを見つけた。マゲイルの"呪解陣が消失反応を示す封印陣の種類の特定とその解法"と、もう名前を見なくなった魔術師の“呪解陣が消失反応を示す封印陣の再検討〜複数の封印陣の解法の考察〜”だ。
この論文は興味深かった記憶があった。マゲイルはその内容を書き留める。
この論文曰く、複数の封印陣が使用されている場合単一の魔法陣で解くのは論文の時点では不可能であり(マゲイルの付け足し:現在でも不可能である)、単一の魔法陣で解くためには構成する魔法陣を分析し……。
ここでペンを止めた。マゲイルにはこの部分だけで十分だった。論文には複数の封印陣の分析の仕方が載っている。ドアの件を論文として書くことになった時にはこれを引用すれば良い。いつものように解法を突き止めなくてもいいのだ。書き留めたメモを紙巻台に巻くと、またドアに戻って行った。
早速、魔法陣の分析に取り掛かる。マゲイルはゆっくりドアに両手を目一杯触れさせ、集中する。マゲイルの全身に情報が流れ込む。体を薄切りにされる感覚、薄切り一枚一枚には不快・快楽が走り、魔法陣の感覚が巡っていく。マゲイルは全ての魔法陣を把握した。
「……腹いせ、ねぇ……」
分析の結果、百の魔法陣が重なっていること、重なった魔法陣に一つの魔法陣が突き抜けるように差し込まれていること、百の魔法陣は全て種類が異なることが判った。
複数の魔法陣からなる型は数多くある。魔法陣の数が多くなれば効果も強くなるが、同時に扱いの難易度も跳ね上がる。これを腹いせに使うには少々難がある。単なる腹いせで使ったならば、どのような技術を持っていたのだろうか?マゲイルは一つ目の魔法陣に取り掛かりながら考える。
ここは中等寮。高等部生より専門性に欠け、高度な術も習わない。独学でこの陣を形成したならば、その悪魔はよっぽど魔法陣に才があったのか、好奇心が桁外れだったのかもしれない。もしくは、自分と同じ「体質」かもしれない。同じ「体質」なら自分の「体質」の起源や原理を知っているかもしれない。もしまだ魔法陣を心得ていたら会ってみたい。
マゲイルとって封印した悪魔の退学理由は、気に留めることでもない。ただこの陣を形成した方法をどこで学んだのか知りたい。それだけだ。
一つ目の魔法陣が解き終わったものの、貫く魔法陣の一部を解かなければ外すことは出来ない。一つ目から手間が掛かっていた。もう夜だ。このペースだと今日明日では終わらないだろう。校長に報告し手当をもらう必要がある。
マゲイルは階段を降りていく。中等寮の食堂から夕食の香りがしてきた。食堂の方へ進級した生徒たちが向かっていく。早く寮に戻り夕食を摂ろう。そして、新しく指導に入る学生の情報と研究の準備をしなければならない。部屋の魔法陣は研究テーマにしてしまえば良い。しばらく時間がかかるが、マゲイルの手に負えないものでは無い。春の夜風に吹かれながら寮に戻るマゲイルの頭の上は、今日も魔界の新月だった。
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