#2 マゲイルの長い仕事

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「面倒だ……」  昼下がりの魔術学生寮中等教育棟の廊下で胡座をかく若き魔術師は、自分の仕事にため息をついた。目の前のドア、正確に言うと寮の一室は、今ここでマゲイルの仕事を増やす原因となった。  このドアと対峙することになったのは数時間前に遡る。  校長の使い魔である空飛ぶ瓶がマゲイルの教職部屋に滑り込み、今すぐ校長室に来るようにと言ってきた。マゲイルは特に疑問を持たずに向かったが、それはある意味彼にとって間違えだったかもしれない。マゲイルが校長室に入ると、フクロウがクルリと吸い込むような目をマゲイルに向けた。 「校長先生。何かございましたか?」  そう言ってみると校長と呼ばれるフクロウは『ホー』と鳴き、嘴を開く。 「マゲイル先生。この度は魔術師の最高位の授与、おめでとうございます。我が校の誇りです。そんなマゲイル先生に頼みたいことがあります。」  祝いの言葉にサラッと頼み事を入れてきた。この瞬間、マゲイルは仕事が増える予兆を捉えた。受け持ちクラスの増加か?落第者の減少か?学生レポートの易化か?マゲイルの頭に覚えのある頼み事が回っていた。どれも、学生の最終アンケートが終わる度にマゲイルが断り続けてきたものだ。もちろん今回も断る。 「先生、頼み事とは?」  もう断る準備はできている。理由もはっきりしている。受け持ちクラスはこれ以上増えると論文指導に支障が出る、落第者を減らせば適性のない研究者が増える、学生レポートを今より簡単にすれば学校の質がもっと下がる。校長はこの理由に何も言えなかった。 「それはですね、中等寮の封印部屋の件です。聞いたことあるでしょう?どんな魔術を使っても開かず、分かっているのは魔法陣で封印してあるくらいのドアの話。マゲイル先生には、そのドアの封印を解いてほしいのです。魔法陣の最高位の方ならできると思います。」  そのドアの話は、マゲイルも聞いたことがあった。中等寮の男子棟、最上階の1番奥の部屋。その部屋はずっと開かないままだという話。噂だとマゲイルが入る前、退学を言い渡された学生が腹いせに封印したらしい。この話を聞いたのは学生のときだったが、先生たちが解くだろうと特に気にしていなかった。しかし、自分にこの話が来たということは、先人たちは無理だったのだろう。 「分かりました。すぐに分析し、対応します。」  先人たちの時より、今は研究が進んでいる。分析すればすぐ解けるだろうと、了承してしまった。これが間違いだった。ドアを前にした時、その考えは直ぐに崩れた。
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