#3 鬼・堕天使・吸血鬼

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 幾山を越え汽車に乗り、森を抜けると、そこは異界であった。ロチの目に映る西の魔界は、正しく「異界」に呼ぶに相応しい場所。いつも通っていた山とは異なる気を放つ暗い森、色の異なる川、それらを横へと流す汽車、全てが異界のものだった。煙管を吸うレツにも気づかず景色に釘付けになるロチの顔には、一見西の魔界への不安などは全くと言って良いほど浮かんでいなかった。  汽車がまた山を越えると、そこには海とも見間違えるほどの広大な湖が山々の中に横たわっていた。その水面には、山々には似合わない島のようなものが浮かんでいた。 「師匠、あれは何ですか?」 「あれがグランツ魔術学校だよ。あそこから手紙が来たのさ。」  その島のようなものに指を差すロチの問いかけに、煙を吐いたレツは答えた。レツが吐く嗅ぎ慣れた煙管の香りが、狭い個室に充満する。ロチはその香りを空気と共に取り入れる。全身に香りが行き渡ったような感覚を抱きながら、その「学校」というものに視線を落とす。見慣れない町並みの集合体、と言った方が良いか。全てを飲み込まんとしそうな濃厚な色をした湖の中にぽつんと浮かぶそんな集合体は、横切る木々の間からロチの目に強烈に映った。  集合体を映す目に、またもや暗闇が支配する。何度くぐったか分らない「トンネル」というものだった。ロチはこの「トンネル」とあの山にあった洞窟との違いはよく分らない。師匠曰く、トンネルとはものや鬼達が行き交うために山に掘った穴のこととのことだった。そんなトンネルは、汽車に乗り込んだ時の様な場所で止まった。それは駅と呼ばれるものだが、東の魔界では殆ど見たことのないものであった。 「怠惰地域……グランツ湖・魔術学校前……。」  そう掲げられているホームに降り立ったロチは、慣れない固い感触を足いっぱいに感じ取った。貨物車から運び出された自分と師匠の鞄を持ち、階段を降りる。降りきった先にレツが待っていた。 「よし、魔術学校に向かうとしよう。」  その言葉を合図にロチとレツは湖の島へと向かった。ロチが荷物を運ぶ間、右手にはグランツ湖が雄大に広がっていた。魔界の空は曇り、光は殆ど無いため水面の光はないものの、全てを飲み込みそうな濃厚な色は湖の存在感をより引き立てていた。湖を映すロチの目に、あの島、グランツ魔術学校が映り込む。汽車で見た以上に大きく、小さいロチの身体を威圧するようにも見えた。そんな魔術学校に気圧されながら、ひたすら歩いた。
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