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しばらく歩いていると、レツは立ち止まる。ロチが一息つくと、目の前には島の入り口に見える橋があった。
「ロチ、ここだ。」
とうとう「学校」というものの前に来てしまったのだ。朝早いためか、橋には二人以外の影は見えない。ただ普段はここに悪魔達が行き交い、生活が存在していることは分った。
橋を渡って門をくぐると、またもや見たことのない町並みが広がっていた。その町は商店と思しきものから生活感あふれるものまで様々なものが集められた様な場所だった。ただ、そこに生活しているであろう悪魔や開いている商店は見当たらなかった。
「何故誰もいないのでしょうか?」
「休みの時期さ。学校というものには長い休みがある。」
「……なるほど。」
長い休みが何故必要か、ロチには理解できなかった。ただ、それ以上追究するのは抵抗があったため、気晴らしに町並みを眺めていた。東の魔界ではまず見ないような高さの屋根、大きなドアに様々な看板が下がる商店街、固い感触の石畳、気配を感じない空気。全てがロチの目には新しいものとして映り、そして取り囲むようにそびえ立っていた。
しばらく歩くと目の前に壮大な門が立ちはだかった。門の上には「グランツ魔術学校」と掲げられていた。ここが魔術学校の入り口であり、真の未知の世界である。ロチは門に気圧されそうになり、レツの背中に隠れた。
「今日招待された薬師のレツと門下生のロチだ。開けてくれ。」
レツの言葉に反応したのか、門がゆっくり音も無く開く。そんな門をくぐると、「学校」と呼ばれる場所に足を踏み入れる。学校は先ほどの会話の通り、他の悪魔の姿も気配も無かった。
「レツ様、ロチ様、お待ちしておりました。」
静けさが支配する中、いきなり謎の声が二人に語りかける。ロチがレツの影から目をやると、ロチよりも一回り小さい、二足歩行の山羊が立っていた。
「驚かせて申し訳ありません。私はこの学校の高等教育部を担当している者です。本日はお二人の案内に参りました。」
さぁこちらへ、と促され二人はその山羊に付いていった。山羊は学校の敷地の端まで案内した。そこには学校の外にある商店や生活感あふれるものよりは大きいものの、「校舎」と呼ばれるものよりは大分小さい建物があった。
「こちらがロチ様の寮でございます。生活面や食事面などで特別な準備が必要な生徒が入寮しております。うちの学校の売りです。」
自分の家が変わった。見たこともない建物に住むことは、ロチにとって恐怖でしかなかった。ただ、ここまで来て今更引き返すことは、ロチには出来ない。山羊が寮の扉を開け、レツと共に後に続く。入ってみると、中は洋風の意匠があしらわれた間を背景に黒いワンピースに白いエプロンを身に纏った少女が立っていた。
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