#3 鬼・堕天使・吸血鬼

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 共有スペースは先ほどとは状況が違った。朦朧とするロチの瞳に黒髪の少年が映っていた。その少年は大きな柔らかいイス(後にソファと知るもの)の端に座り、魔界の薄暗い光を背に本を読んでいた。そんな少年の隣に座らせられたロチは、重い顔を少年に向けることになった。その少年はロチに目を遣りつつも、すぐに本に視線を移した。その少年の瞳は朦朧とする視界でも分るほどの濃い桃色をしていた。しかしその色の瞳は左目にしか存在せず、右目は左目の白目部分と同じく漆黒で覆われていた。不思議な瞳、ロチの率直な感想は今の意識を投影していた。  しばらくしてものを引く音と共に先ほどの少女が戻ってきた。引いていたのは菓子や小型の薬缶のようなものを載せた台であり、近づくほどに甘い香りが漂ってきた。 「これを食べて飲んで休めば大丈夫よ。トビア、参加しなさい!新しい子よ!!」 「見れば分る。」  トビアと呼ばれたその少年は、本を閉じて答えた。トビアはテーブルに菓子や茶を広げ、エリジェーベトは優雅にお茶を注いだ。お茶を注がれ菓子を突っ込まれたたロチは少しずつ意識をはっきりさせていった。はっきりした意識の先には明るい色の見たことの無い菓子と、茶とは違う飲み物が並んでいた。その飲み物の香りは甘いものの味に苦みがあり、菓子によく合うものだった。自分で茶を啜るロチの横で、静かに飲むトビアは終始無言であった。 「おいしいでしょ?私、血しか飲めないけど食べ物に興味があって、食物錬金で作ったんだ~!」  その言葉を皮切りにエリジェーベトは自分の得意分野について話し始めた。彼女の家は大昔現世で活動していた吸血鬼であったこと、今は魔界の城で暮らしており城には元人間の吸血鬼が多くいること、その吸血鬼達は程度があれど固形物に飢えていること、自身も固形物に興味があること……、話し倒していた。ロチはその話しを聞きながら菓子を食べ茶を啜る。 「それでね、私、初めて会った悪魔とかの血は出来るだけ飲みたくて許しを貰って飲んでるの。特にトビアの血はおいしくてね~、さすが堕天使の古代悪魔だな~って思ったの。」  突然の情報にロチは咽せた。堕天使、古代悪魔、どちらも昔レツに教わったことがあった。どちらも魔界の上位に位置する悪魔であり、他の悪魔はひれ伏すしか無いと聞いた。そんな悪魔の血を、彼女は許しを得て飲んだと言うのだろうか。その話を聞いたトビアは手を止めた。 「あれは勝手に飲んだだろう。許可をした覚えは無い。」 「やっぱり目の前にあるとねぇ……、あのときはごめんね☆」  この子は何処か変わっているのだろう。ロチはとりあえずそういうことにした。今日は疲れた。この二人と生活することにはまだ感想は持てない。ただそれだけだ。  甘い菓子と茶の香りの中で、ロチは二人の会話を耳に入れていた。
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