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「私、弥生くんと付き合う事になったんだ」
桜色に染まる頬。濡れた瞳が春の日差しにきらきら揺れている。恋する乙女の顔はあまりに美しく、忌々しかった。
春休み、二人で遊びに行った帰り。ずっと何か言いたげだった親友の突然の告白は、私にとって青天の霹靂という訳でもない。私はずっと私達の頭上に立ち込める暗雲に気付いていた。それでいて何もしなかっただけ。
これは単に三角関係の一つの結末だ。登場人物は私、私の幼馴染の弥生、そして高校で出会い一番の女友達になった皐月。
私は幼馴染と親友を同時に奪われ、淡い初恋まで断たれてしまった。
「それでね、あの」
言い淀む皐月。彼女は私と弥生の関係がかけがえのないものだと知っていて、その上で彼との関係を認めて欲しがっている。ずるい女の子だ。
(これはエイプリルフールの嘘、じゃないよね……)
その日は四月一日で、もしかしたら嘘かもしれない、嘘だったら良いのに、と私は願った。けれど馬鹿正直な皐月はエイプリルフールだからといって人を騙そうという発想さえないだろう。可哀想な私だけが、嘘つきになる。
「へえー。皐月ってあいつが好きだったんだ? あーあ残念。皐月は私が狙ってたのになあ」
心を見透かされないよう笑って誤魔化す。何とか「おめでとう」を絞り出すと、皐月の強張っていた顔がほっと綻んだ。
――四月一日、私は失恋した。
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