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高校二年の一日目が始まる。連休明けはいつも憂鬱だが今日は間違いなく私至上最悪だ。学校が始まれば嫌でも弥生と皐月の二人と顔を合わせなくてはならない。
(クラス替え、別々になりたいな)
私は重い足取りで学校へ向かう。桜はすっかり散りアスファルトの上の絨毯となっていた。踏まれて汚れた花弁が痛々しい。そんな切ない花見をしていると、前方から今一番聞きたくない声が聞こえてきて、私は顔を上げる。
ひょろ長い弥生と小柄な皐月。私の少し先で対照的な二人が肩を並べて歩いていた。早速待ち合わせでもしたのだろう。皐月は丸い頭を懸命に傾げ弥生を見上げている。大きな口を開けて笑う彼女に、弥生は照れくさそうに頭を掻いた。肩越しに見えた彼の優しい眼差しは知らない男の様で、私は勝手に裏切られた気持ちになる。
二人の指先が触れ合い、びくりと揺れ、ぎこちなく繋ぎ合った。
心が軋む音。
私はそれを見た瞬間、走り出していた。一瞬たりともその場に居たくなくて、消えてしまいたくて、通学路を逸れ適当に走る。追いかけてくる人なんて居ないのに必死に逃げていた。
ローファーの靴裏が柔らかい土の感触に変わる。ハッとして辺りを見回すとそこは知らない小路だった。未塗装の地面。両側に聳える木の壁。板に石が置いてある変な屋根。なんだか、タイムスリップしたみたいな雰囲気。
(こんな道、学校近くにあったかな?)
不安になり、元の道へ戻ろうと踵を返した時――
「うわっ」
小石に躓き盛大に転んだ。咄嗟に近くのロープの様な物を掴むが、ブチッと切れてしまう。顔を庇って突き出した手と膝がザリリと地面に削られた。ジンジンする痛みと湿った感覚のあるそこに恐る恐る目をやると……傷口がザクロみたいになっている。
「うそぉ」
最悪だ! こういうのなんて言うんだっけ。泣きっ面に蜂か。
ポタリと冷たいものが私の頬を打つ。涙じゃない。雨だ!
ポツポツ小ぶりだった雨は瞬く間にザーザー降りになる。泣きっ面に蜂っ面に……更に何? どこまで追い打ちをかけてくるんだろう。弥生は常に折り畳み傘を持っているから、二人は今頃小さな傘で相合傘だろうか? 私は一人、路地裏で膝を擦りむいて雨にびしょ濡れ。こんな惨めな事ってある?
「はは、信じらんない」
エイプリルフールのあの日からずっと悪夢が続いているみたいだ。ただの夢で嘘だったらどれだけいいか。
「じゃあ嘘にしちゃおう」
「えっ?」
突然話しかけられ、心臓が止まりそうになる。
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