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私のすぐ後ろ、着物姿の少年が気配も無く立っていた。同い年にも年下にも見える年齢不詳の顔立ち。肩まで伸びた小麦色の髪は少女の様だが、細長い手足と薄い体は少年特有のもの。黒い瞳はどこまでも、深い。
(なんで着物なんだろう? コスプレ?)
少年は気持ち良さそうにぐーっと伸びをする。
「はーっ。まずはお礼を言わないとね。君が封印を解いてくれたお陰で、僕は自由になれたんだから」
「ふういん?」
不思議な少年が、不思議なことを言う。少年が私の手元を指差した。そこには先程掴んで千切ってしまったロープ。何やらそれっぽい紙札が括り付けられている。まるで悪霊を封印していたお札みたいな。
「本当に有難う。そしておめでとう!」
「な、何が?」
「僕は泣く子も黙る大妖怪、四月一日だよ。助けてくれたお礼に君の願いを叶えてあげる」
「なんだ夢か」
と現実逃避する私の頬をワタヌキが勝手に抓った。痛い!
「ほら、夢じゃないでしょ? でも嘘にはできるよ。怪我も雨もね」
少年がパチンと指を鳴らした。その瞬間、私の視界は真っ白になる。
「君を幸せな世界へ連れて行ってあげる。さあ、優しく甘い嘘をたんと召し上がれ」
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