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マゲイルは東の魔界から来たが、生まれは西の魔界である。生まれた時、両親はマゲイルの「体質」を悟り、西の魔界から逃すことにしたそうだ。マゲイルの「体質」は詳細不明の由来であり、当時の西の魔界では成り上がりたい悪魔たちの間で高値での取引や、手足単位での売買が横行していた。当時の上級悪魔達はそれを是正しようと奮闘していたそうだが、マゲイルの両親は息子を「心配」し東の魔界まで行った。東では魔法陣学は殆ど発達していなかったからだ。両親は知らない土地を渡り歩き、レツの元に辿り着いた。レツは山奥で薬草を調合し薬を売る薬師だった。両親は初対面のレツに東まで来た理由、西の現状、マゲイルの「体質」、レツにお願いしたい理由を話し、懇願した。レツはそれを聞き入れ、マゲイルを引き取ること、西の魔術には触れさせないこと、両親とマゲイルは会わないことを提示し、両親はそれを承諾した。
レツに引き取られたことにより危険から逃れたマゲイルは、レツの直弟子として育てられた。字の読み書きから始まり、散歩がてらの薬草の知識、本格的な調合、仕分け、そして「体質」を抑えるための薬を与え西の魔術に触れない生活をした。たが、どんなに知識と技術が卓越したレツでも限界があった。薬を与え続けても「体質」は抑えられなくなってきた。レツからみてマゲイルにとっての魔法陣は、身体の一部のようだった。薬よりも、魔法陣だろう。レツにその考えが浮かんだ。そう思ったら早かった。レツは西の魔術学校に連絡し、マゲイルを立地は最悪なものの教育体制は上級の魔術学校に入れることにした。マゲイルはそれを聞いた時困惑したが、自身の「体質」とレツが授ける知識の齟齬は肌で感じていた。入学を了承したマゲイルはレツの下を離れ、今に至るまで魔術学校にいる。
あの時、レツが魔術学校に寄越さなかったら自分はどうなっていたか、マゲイルは時々考える。異国の顔をした薬師になっていたのだろうか?あのまま薬師の道に行っても、齟齬は直らないと思われるが。
「ところで。」
マゲイルの思考はレツの言葉に止められた。顔をやると、いつものように伏しがちの目と上がりがちの口角をマゲイルに向けているレツがいる。
「ロチの直弟子の件は聞いているだろう?ロチはあのままだと編入試験に合格できない。だからマゲイルの魔法陣学の弟子として申請して、直弟子入学制度を使った。」
師、やりやがった。ロチの直弟子の話は手紙で知った。異国に来たロチが困らないように、兄弟子のマゲイルの傍に居させる口実にすると聞いた。しかし直弟子入学制度を使ったのは初めて聞いた。
「直弟子制度を使えば確かに試験は免除ですが、ロチは薬の、しかも東のものしか心得が無いんですよね?良いんですか……?」
思わず大きな声が出た。マゲイルは焦った。マゲイルはどの教育部でも名が通っている。そんな悪魔の直弟子、しかも制度を使って入ったとなればロチは否応なく注目されるだろう。ロチには魔法陣の心得は無い。授業で出来なかったら大恥だ。
「そのための存在だろう、“先生”?期待しているよ。」
全てを見透かすような一言を、レツは放つ。マゲイルはまた一つ、仕事が増えることを悟った。
「わかりました、先生。空き時間で教え込みます。」
「そうしてくれ。」
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