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この寮に来てから一週間ほど経ったとはいえ、ロチの荷物は少なく圧倒的にエリジェーベトのものが多かった。エリジェーベトが愛するものに囲まれながら、ロチは送られてきた制服に着替えた。送られてきた制服は東の魔界にいた時に度々来ていたお金持ちのお嬢さんが来ていた服であることに気がついた。レツの服をベースにした服に、本来男が履く袴を合わせたもの。レツ曰く、学校にいくお嬢さんが着るようなものとのことだった。自分も学校で学ぶのだからこの服装は合っていると言える。
「可愛い!ロチ、可愛いよ!」
自分の姿見をロチの前まで持ってきた。姿見に写ったロチは、あのお嬢さんの格好になっていた。色もロチの髪色に合っており、エリジェーベトの言う通り可愛らしいものになった。ただ、頭に何もないのと靴が東の魔界で履いていたサンダルになってしまっているため、格好がつかない。頭につける物と似合った靴を買った方がいいかもしれない。
「トビアに見せましょ!」
エリジェーベトに言われて、自室から出ていった。
ロチは薄々想像していたが、トビアはロチにあんまり興味がないようだ。エリジェーベトに勧められてもチラリと見るだけで、よく見たりはしなかった。それはトビアのロチに対する礼儀なのかもしれないが、エリジェーべトはそれが気に入らないようだった。
「トビア!見なさいよ。これから一緒に暮らす子の制服だよ。聞いてる?」
興奮したエリジェーべトはトビアに急接近した。トビアが座る椅子の背もたれに手を置き、トビアに覆い被さるようにし顔を近付けた。その状態じゃエリジェーベトしか見えないよ、とロチは思った。ロチからはエリジェーベトの顔は伺えないが、ロチから見えるトビアの顔はロチの方を見ていた。
「わかったから、どいてくれ。見えない。」
そう言われるとエリジェーベトはどいた。どいてもらったトビアは改めてロチを見ていた。ロチの顔はあまり見ないが、制服はちゃんと見ていることはロチにもわかった。
「良い制服じゃないか。さすがは強欲地域の仕立て屋だ。」
これがトビアの精一杯の褒め言葉なのだろう、ロチはそう思った。エリジェーベトは満足半分の顔をしつつもロチの制服を見て「可愛い」を連呼していた。ロチはだんだん照れ臭くなり、気づけば空は仄かに赤く夕日に染まっていた。今度、エリジェーベトと買い物に行こう、初めてはっきりそう思った。
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