かみさまのおひっこし!

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動ける者たちで瓦礫を脇道へ避け、燻っていた火を消し止め、儀式は再開された。竜から人の姿へ戻ったアルドは抵抗することもなく拘束された。半壊はしたものの西殿の祭壇へ御神体は納められた。あるべき姿とは言えない状況に、これからどうしていくかは日を改めて一族で相談することとなった。 幸いといえるのか死者は出ず、ロゼやテオだけでなくアルドも手当てを受けて、諸々の片付けが終わって家に戻ってきたのは満月が中空に浮かぶ頃であった。 「大儀であったな、テオ」 とっておきの酒瓶を出してきたラウロは、戦友に一献を傾けた。剣士は一気に飲み干すと、今度は盃を返した。お互いに顔を見合わせて笑った。 「アルドもこっちにおいでよ!」 巫女のたっての願いで、竜人族の子は処分保留となっていた。あり合わせの食材で作られた晩餐は、質素ではあったが4人の腹を満たすには充分だった。 「わしの見立てではな、あの御神体は空っぽじゃ」 何杯目かの盃をとん、と置いてぽつりとラウロが言った言葉に、一同は虚を突かれる。 「空っぽって…何処いっちゃったの、神様!」 食卓に身を乗り出して祖父の顔を覗き込んだロゼに、ラウロは指をさした。 「ロゼの中に引っ越したみたいじゃの」 「え、えええ―――?!」 テオとアルドがぽかんとした顔でロゼを見る。 「いや…全然わかんないよ?! 何も実感ないよ?!」 「前代未聞の事態じゃからのう、これは極秘裏に慎重に事を進める必要がある」 「確定事項なのかよ…」 テオが半ば呆れ顔で独りごちると、竜人族の子に目をやった。 「てめえのせいだぞ?」 「わ…わわ、わかってるよ! 責任は取る!」 「責任を取るとは言ってものう、不可侵の神領で神を奪おうと暴れた挙げ句、遷宮もできなんだと各国に知られたら…」 アルドは頭を抱えた。 「俺は…王位継承権第七位で…何の取り柄もないごみだって言われててそれで…」 「ぜってえ回ってこないやつだな、その順位」 「もう、テオもそんな言い方しない!」 ラウロは笑うと、3人を順に見つめた。 「ロゼに宿った神を、あの剣に戻す方法があるかもしれん」 「どうやって?!」 「神とともに千年戦争を戦ったという賢者がここからずっと北のカティア山脈におって、そやつならわかるかもしれないのう」 「よし、俺が飛んで連れてきてやる!」 「大罪人自ら目立つことをしてんじゃねえぞ」 「いやいや…いくら何でもその賢者の肉体は生きてはおらぬ、思念体としてそこに残留しているだけじゃ」 ロゼはわくわくした衝動を抑えきれずに、その場でぴょんぴょんと跳ねた。折れた肋骨が痛んで、にじむ涙をぐっとこらえる。 「わたし、カティア山脈にいく!」 初めての旅、初めての冒険! ここじゃない何処かへいくんだ! 神様とか巫女とかよくわからないけど、新しいことが始まる! 「テオとアルドも連れて行くんじゃぞ」 えっ、と短く驚いた剣士と、大きく頷いた竜人族。 そして、3人の旅が始まる。
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