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無造作に束ねた鳶色の髪を揺らし、ロゼは村のはずれ、森の近くまで走ってきた。あの聞こえてきた音から察するに、この森のあそこに仕掛けた罠に獲物がかかっているのに違いない。
「うさぎかな、猪かなあ」
ごちそうが食べられる想像をして、ごくりと唾を飲み込んだ。ふと、森の方から人影を認めたロゼは、歩を止め、咄嗟に道をはずれて身を隠した。
見慣れない姿だ。
ラウロより大きく、山のようなと言っても過言ではないほどの精悍な体は引き締まり、黒い甲冑を身にまとった銀髪の大男の背中には、これまた体躯にふさわしい大きな剣をさげていた。
(一族の人間じゃない…外部からの侵入者?!)
ここで一戦を交えるのは得策ではない、近道から集落へ向かって救援を頼んだほうがいい、そう素早くはじき出すと、ロゼは侵入者とは反対方向へ後ずさろうとした。
「おい」
低く太い声に呼び止められ、体がすくむ。ゆっくり振り向き、男と視線があう。
「ぼうず、おまえここの一族のもんか?」
年齢でいったら、自分の父親くらいかもしれない。男は警戒するロゼに構わず距離を縮めてきた。
「ラウロに呼ばれて来たんだが、おまえ知ってるか?」
「じいちゃんに?!」
祖父の名前が出てきて、ぱあっと笑顔をはじけさせたロゼに、男はほう、と得心がいったようだった。
「ぼうずがラウロを戦士から引退させた孫ってやつかー、なるほどな」
引退って…、ラウロの足手まといみたいな扱いをされ、ロゼは頬をふくらませた。
「さっきから聞いてればぼうずぼうずって! こう見えて腕には自信あるし、わたしは女――」
そこまで言って、胸に衝撃を感じた。
「ほんとだ、ぼうず、女か」
男がロゼの右胸を鷲掴みにしていた。
「ぎゃああああああっ」
森から何羽か鳥が飛び去った。
今日は神聖な儀式の日である、はずなのに、何でこんな奴をじいちゃんは呼んだの?! ロゼは顔を赤らめて飛び膝蹴りを食らわせた。
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