かみさまのおひっこし!

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「まあまあ、つまり、なんだ」 ラウロの前には、不機嫌な孫と、旧知の戦友と、得体のしれない大きな麻袋が唸り声をあげている。 「ロゼは、早く巫女の準備せい」 「じいちゃん、なんなの、この失礼なやつ!」 堰を切ったようにロゼはラウロに詰め寄った。 「儀式には一族以外からの護衛役が必要じゃと言ったであろう、だからわしが最強の剣士を呼び寄せて…」 「嘘でしょ?!」 「先の隣国の継承戦争では現国王の窮地を脱する獅子奮迅の働きで、剣士テオここにありと言わしめたほどの男でな」 「おそれいります、ラウロ様」 テオと呼ばれた剣士は恭しく大きな図体を折ってみせた。 「この村に張ってある魔術結界を物ともせずやってこられて、息災のようじゃの、テオ。様づけはやめい」 「ではラウロ、あなたのお孫さんもなかなかよく仕込んでいますな、羨ましい」 ぎりぎりと睨みつけるロゼを見下ろすと、意にも介さず鳶色の髪をがしがしとかき混ぜた。 「会っていきなり金的からの掌底打ちへの流れは見事でした、いい筋をしてる」 「やめろ、馴れ馴れしくさわんなってば!」 「これでも巫女なんじゃがの…」 「わたしがいればこんな護衛なんかいらないよ、じいちゃん!」 まあまあ、と孫をなだめて、ラウロは先程から一番気になっているものに目を向けた。 「このさっきから騒がしい麻袋の中身は何じゃ、うさぎでも猪でもなさそうじゃが」 ああ、とテオは頷くと、袋の紐をといた。 「森の罠にかかってたぞ、竜人族の子どもが」 袋から現れたのは長く伸びた黒い髪、褐色の肌、とがった耳を持つ少年だった。テオが少年の口を塞いでいた布切れをほどくと、ぷはっと大きく息をついた。 「こらぁ、手と足もほどけぇ!」 「なんとまあ、こやつも結界をくぐり抜けてきおったのか…また張り直さねばの」 この忙しい日に、とラウロは頭をかいた。 「竜人族の子は取り敢えず今は地下牢にいてもらおう、儀式に関わらせるわけにはいかないのでな」 ぱん、と手を打つと、ロゼに準備をするようにと追い立て、テオには村を案内しながら今日の儀式の流れを話そうと言いつつ、竜人族の子を麻袋にもう一度入れてひょいと背負った。 「さあ、引越じゃ!」
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