かみさまのおひっこし!

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今回の遷宮は、東殿から西殿への引越である。現在東殿にある御神体を、本殿を通る長い渡り廊下を越えて、西殿へと運ぶ。たったそれだけではあるが、すべてに作法と手順があり、祭礼道具のひとつひとつにすら、眠る神様を次の30年間守るための力を宿す儀式であった。 ぴん、と張りつめた空気に、ロゼは姿勢を正した。何度も練習をさせられてきている。今日はそのとおりに滞りなく務めを果たすだけである。 ラウロは本殿で祝いの言葉を詠唱する役であり、ロゼの傍にいるのは護衛役のテオである。 祭壇から、ロゼは御神体の入っているという細長い匣を取り出した。実際に見るのは初めてである。美しい細工が施された匣を持つと、不思議な感覚が手元に広がった。無機質なものとは違う、熱気のこもった強い魂。 (これ…わたしだけが感じてるの?) 恭しく目の高さにまで匣を両手でかかげ、ゆっくりと渡り廊下の方向へと進む。後ろに控えているテオの気配を感じながら、御神体をそろりそろりと運んだ。 渡り廊下は吹き抜けとなっており、太陽の光が差し込み、厳かな音色が流れる中、長い長い道のりを歩く。中央にある本殿に差し掛かった時だった。 轟音とともに、遠くで土煙があがった。 「!」 反射的に音のしたほうへ目を向ける。少し遅れて地響きが鳴る。遠くで悲鳴のようなものが聞こえた。 「皆の衆、警戒しつつ、そのまま続けよ!」 ラウロの鋭い声が響き、ロゼははっとなる。口惜しそうな表情で空を睨みつけながら、詠唱を続けている祖父を見て、ロゼは後ろを振り返った。 目が合う。 今、ここで自由に動けるのはこの男だけであった。 そのとき、覆い尽くすほどの影と暴力的な突風が社殿に襲いかかった。 「竜だ!」 竜? まさか、アルド?!
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