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スフェンの自室は教職員棟IIにあった。猫らしく日当たりの良い部屋には、茶葉やら煮干しやらが棚を破裂させようとしていた。スフェンはマゲイルに茶を振舞った。
「君は天才だし、体質の活用も上手い。僕も認める。でもな、無理すんな。我を忘れるのは良い癖じゃないね。」
言い返す言葉もないマゲイルは黙って茶を啜る。茶は苦味が主であるものの、どこか甘味があり茶菓子によく合った。途切れた紋への意識は徐々に戻り始め、思考も明確になっていく。ドアの前にいた自分は本当に手しか動かしていなかったようだ。そう思い返すマゲイルの目の前には、煮干しを齧り、これでもかと言うほど茶を冷まし啜るスフェンがいた。
「……猫に茶は禁忌だった気がするが……。」
「僕の体は”人間”寄り。まだ完全に休めてないね。」
あぁ、そうだった、とマゲイルは思った。以前スフェンから聞いた話を思い出せなかった。先程、紋への意識が戻ったのはただの作業の反復に過ぎなかった。
昼下がりの心地良い魔界の光は、廊下の天界の光とは異なるものだった。恐らく集中が途切れたのは知らず知らずのうちに天界の光に当たり続けたからだろう。悪魔によるが、基本天界の光は悪魔には猛毒であり、悪魔によっては少し当たっただけで消滅することもある。この魔術学校の立地最悪の所以はここにある。この学校は、よく天界の光が魔界の雲を通さず差すことがある。だがマゲイルは体質も相まってか、上級ほどではないが耐えることが出来るし、業務も正常に遂行できる。集中が切れたのは、恐らく解除中ずっと当たっていたからだろう。マゲイルはそう納得した。
「大分休めたか、マゲイル?今思ってる事を僕に言いなよ。聞くから。」
「あの封印の作りは腹いせにしては度が過ぎている上に、扱うには相当な専門技術が必要だ。でも噂では中等教育部中退者がやったとされている。俺たちの頃から立ってる噂だから信憑性は薄い。だが、技術は本物だ。作った奴に会ってみたい……。」
マゲイルは思った事をつらつらと話した。魔法陣のトラップは地味ながらも強力である事、部屋の中をどうしても隠したい気持ちが滲み出ている事、解除作業時の体の感覚は良いものではない事……、普段他人に話す事は無いことを沢山言った。スフェンは煮干しを齧りながら耳を傾けた。
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