Sunrise -朝陽-

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Sunrise -朝陽-

「深雪、ッ――」  言葉では表現しきれない、何か胸騒ぎを覚えた千影は足を止めて振り返る。 「どうした?」  千影の様子に気付き先導していた綜真も足を止めて振り返る。  深雪を信じて数時間歩き続けた洞窟の中。濡れた服を一度脱ぎ、乾かしている間も深雪と柊弥のふたりが後から追ってくることは無かった。  種族の確執を理由にしていた深雪だったが、たったひとりの人狼である深雪はどこか同じ純血種である柊弥のことを目で追っている節があった。それは混血である千影には決して埋めることの出来ない深雪の心の穴であり、深雪は失った兄の面影を柊弥に求めていたのだと千影は感じていた。  柊弥は深雪からのやっかみを持ち前のスルースキルで躱してはいたが、ひとりではどこか危なっかしい深雪を常にフォローするように立ち回っていたことにも千影は気付いていた。  ふたりを阻むのはただ種族の壁というものだけであり、そのどちらの血も入った千影がいつかふたりの中を繋ぐ架け橋となれればと常日頃から考えていた。  だから深雪が柊弥を迎えに行くと言い出した時は驚きもしなかったし、あのふたりならば危機を乗り越えて必ず追い付いてくるものだと心のどこかで信じていた。  幼いころ、父に連れてこられてそれからずっと本当の兄弟以上に兄弟のように過ごしてきた深雪。そんな深雪ともう二度と会えないかのような、そんな嫌な胸騒ぎがした。  辛い時も、苦しい時も、どんな時でも深雪だけが千影の側に居た。  そんな深雪は今まで一度であっても千影に対して嘘を吐いたことはない。 「――いや、何でもねぇ」  だからこそ、千影は必ず深雪が柊弥を連れて戻ってくると信じることが出来た。  一晩中歩き続けて体力はもう限界に近付いていたが、深雪を信じて進めば言葉通り市街地に出ることが出来るはずで、そこから綜真と共に西を目指す。  父も誰も自分たちを知らない土地へ。これまでの生活全てを捨てても構わない。 「ほら、もうすぐだ」  綜真が示す指の先には薄明かりが射し込む洞窟の出口が見えた。目蓋の奥へ突き刺さるような眩しさに目を細めて逸る気持ちを抑えて足を進める。  洞窟を抜けた先に広がる平野、住宅街が広がり微かに日常を始める人々の息遣いが聞こえてくるようだった。  綜真が千影の肩を抱き寄せ、千影は綜真に身を寄せる。何故だかとても悲しくて自然と涙が零れ落ちた。
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