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「やっぱり、咲きそうにないわね」
よいしょと縁側に座って桜を見つめる。
昔、ママがそうしていたように。
見つめる先には桜の木。ママが大切にしていた桜の木。
今は葉も花もない、寒々しい枝が広がっているだけの桜の木が立っている。
「ここにいたのか」
言葉とともに潤くんがフワッと上着を肩にかけてくれた。
昔、私もこうしてママに上着も持ってきたなと懐かしく思っていると、「身体、冷やすぞ」と、座布団と膝掛けまで持ってきてくれている。万全の用意に思わず笑ってしまう。
同期入社の彼と結婚したのは二年前。結婚して家を出ることを考えていたけれど、彼はこの家に一人残るパパを心配して、この家で一緒に暮らそうって言ってくれた。そんな優しさがパパと似てる。
昔、ママが言っていた。
『女の子はパパに似た人と結婚しちゃうんだよ』
本当にそうかもしれないな。
顔は似てないんだけど、人を大切にしてくれる優しさはパパと一緒だ。
それでもこの家で同居することにはならなかった。パパが、「まだ大丈夫。これからは一人の時間を満喫するよ」って言って同居を断られたから。
確かにパパは一人で生活していける力がある。結局潤くんの実家とうちの実家、双方の真ん中あたりに私たちは新居を構えた。
「花織の好きないちご大福も持ってきたんだけど」
「え? 食べる食べる!」
この気配りと準備のいい旦那様は私をとことん甘やかしてくれる。
手渡してくれたちょうどいい温かさの湯飲みを両手でしっかりと持って、隣に腰かけた潤くんの肩にコテンと首を預けた。
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