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異変にはママが亡くなった翌日に気づいた。
満開だった桜の花が、一輪も残らず散っていたのだ。
まるで、ママの命と一緒に力尽きたみたいに。
それから毎年、春が来ても桜は咲かなくなった。
ママが大好きだった桜の木。
ママが『見守ってくれる』って言った桜の木。
何年経っても咲かないこの木は、きっと私の事なんて見てはいないのだろう。ママと一緒に、桜も逝ってしまったんだ。
私は、置いていかれたんだ。
ママからも。桜からも。
季節が移りかわっても、何年過ぎても、桜の木はまったく景色を変えない。
私が成長して、制服が変わり、脱ぎ捨て、成人になっても。桜はまったく立ち姿を変えることはなかった。
ママの嘘つき。
だれが私の事を見守ってくれているの?
桜は私の事なんて見てくれていないよ。
縁側に座って涙を零す私を、パパは宥めるようにそっと頭を撫でてくれた。
『ママのかわりにはなれなくても、パパはずっと花織の事を見守っているよ』
パパの優しい言葉が、じんわりと私の心の隙間を埋めてくれる。
そんなパパも時々、縁側に座って桜の木を見ている。
私には見せられない涙を流すときもあれば、お酒を片手に嬉しそうに話しかけているときもあった。
きっとパパは、桜の向こうにママを見ているんだ。
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