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24、桃園の契り 毒殺未遂事件(2)
事件は、現場で起きたんだ!
「んうっ――辛っ、ど、毒、れす……」
毒見役はどんどん顔色を悪くしていく。
医師が駆け寄り、急いで処置をすることで毒見役は一命を取り留めたらしいが。
「きゃあぁぁっ! 毒ですわ!」
「これはどういうことですっ?」
当然、現場は騒然となる。そんな中、咸白宮の侍女が動いた。桜綾、という名の侍女だった。
「告発します、侍女頭の雨萱様が犯人です!」
「桜綾!?」
彼女はぶるぶると震えながら雨萱の手を掴んで、叫んだ。
「私、見ました。雨萱様が毒を持ち込んだのを。こ、……これですっ。事前に袖に手を入れて毒を自分の指に塗り、皮を剥いた無花果にさりげなく毒を塗ったのです。瓶は、袖に隠そうとしたのに気付いて、たった今、私が奪いました」
その手には、毒の小瓶が握られていた。中には冶葛の煎じ液が入っていた。
「そ、そんな! 私ではありません!」
雨萱は目を見開き、首を振っている。しかし、桜綾の告発は止まらない。
「これは彰鈴妃は存じ上げないこと、雨萱様の独断です。私は止めていたのですが、彼女はもともと彰鈴妃に他の妃様を毒殺するよう勧めようとしていました。それも、自分では言わず、私に言うよう強要していたのです……!」
桜綾は目元を袖で拭い、大粒の涙を流した。
「彼女は私にとって、元同期であり、現在は上司です。命令されて……断れなくて……私は仕方なく彰鈴妃に毒をお勧めしました。善良な彰鈴妃が拒絶したので腹を立て、このような凶行に及んだようです。凶行をお止めできず、申し訳ございません……」
結果として、雨萱は拘束された。
これは何かの間違いです、私ではありません、と繰り返す声は悲痛であった。
場所が鍾水宮であり、相手がよりによって格上の黒貴妃、華蝶妃だった。彼女は「何かあればすぐ処刑!」という恐ろしい妃だ。
侍女頭の独断と証言されており、彰鈴妃は身分が高いので即処刑とはならない。
が、黒貴妃は「調べれば毒が出てきたり、実は彰鈴妃が侍女頭に命令していた事実が発覚するのではないかしら」と言って宮正に咸白宮行きを指示した。
まずこの後、侍女頭は処刑されるだろう。
そして、次は彰鈴妃だ。
たぶん彼女を処刑するに足る証言や証拠品がこれから出てくる。そして、四夫人の一人が処刑されるという大事件に発展するのだ。
四大名家の白家も連帯責任を問われるかもしれない。大変なことになったぞ。
未来予想図を脳内で展開させつつ、宮正(宮中の秩序を取り締まる役職)の宦官たちは揉み手で黒貴妃の言いなりになり、咸白宮にやってきたのである。
* * *
現在は、午の刻半(十三時)。
「そんな……。お、おかしくないですか? だって、妃が食べないとわかっているものに毒を盛ってどうするんです……?」
妃を毒殺するならわかるが、今回の毒殺の仕方では仕掛けても妃は殺せないし、真っ先に咸白宮側が疑われてしまう。あやしすぎる。
「おかしい、おかしくないではない。実際に毒殺未遂があり、毒物を所有していた人物がいた。その人物が毒入りの果物の皮を剥いた人物だった。そして、咸白宮の侍女頭だった。彼女が有罪だと証言する者がいる。……という事実が全てなのだ」
「え、ええーーーっ」
絶対、陥れられてるじゃないですか!
雨萱様が処刑されちゃう!
それに……紺紺はハッとした。
「……あっ。や、冶葛がある……わ、わぁぁ……っ」
紺紺は見ていた。
咸白宮の主の部屋には、桜綾が持ち込んだ毒がある。冶葛だ。
……あれが見つかったら、彰鈴妃は終わりだ!
白家も連帯責任を問われちゃう!?
――なんとかしないと!
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