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「どちらのチームを応援しているのですか?」
「マンチェスターユナイテッドです」
「えー、ぼくもですよ」
こんなところでマンチェスターユナイテッドのファンに会えるとは、何という偶然。篤が「浜中といいます」と名乗ると、相手も「剛田です」と名乗り、話がはずんだ。
試合がマンチェスターユナイテッドの逆転勝利に終わり、二人はますます気分が盛り上がった。
「ところで、浜中さんのご職業は何ですか?」
「医者です」
「それではお仕事でロスに行かれたのですか?」
「いや。三か月休みがあったので、研究という名目でロスで充電していました」
「へー、お医者さんは忙しいのに、よく三か月も休みが取れましたね」
「ええ……、あまり大きな声では言えないのですが、酒気帯び運転で、三か月の業務停止処分を受けましてね。ちょうど今日までなんですよ」
剛田は驚きの表情を浮かべた。
「剛田さんのお仕事は何ですか?」
「公務員です。いや、もっとはっきり言った方がいいですね。……刑事なんです」
一瞬、篤は息を呑んだ。
「そ、そうなんですか……」
「驚かせてすみません。浜中さんが事情を打ち明けてくれたのに、こちらが公務員ととぼけるのは何だか申し訳ない気がして」
篤は右手を左右に振った。
「いやいや、こちらこそ気を遣わせてしまいましたね。今は、やましいところはありませんから、ご心配なく」
二人は顔を見合わせて苦笑いをした。
「剛田さんはロスには何をしに行かれたのですか?」
剛田は声を潜めた。
「ロサンゼルス警察のサイバー犯罪対策研修に、上司のお供で行ったんです」
「じゃあ、上司の方と今も一緒で?」
剛田はかぶりを振った。
「上司はビジネスクラスです。私はエコノミー。身分が違いますからね」
剛田は「身分」という言葉に力をこめて、口角を上げた。
そのとき、機内放送が入った。
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