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「ひょっとして太っていましたか?」
「ああ、肥満タイプですね」
「ちょっと失礼してトイレに行ってきます」
剛田は立ち上がって、前方へ歩いて行った。
篤は興奮した頭を鎮めようと、コールボタンを押して、冷たいオレンジジュースを頼んだ。
篤は悩んでいた。後ほどCAから今回の医療措置についての報告書に署名を求められるだろう。その際、まさか嘘はつけないので、所属病院名を書くことになる。そうすれば、病院に連絡が行き、医業停止期間中に医療行為を行ったことが露見してしまう。罰則はどうなるだろう。医業停止期間の延長で済めばいいが、万一医師免許剥奪になるともう将来はなくなってしまう。
剛田が戻って来た。彼も「喉が渇いた」と言って、オレンジジュースを頼んだ。
「乾杯」と彼は紙コップを持ち上げ、ジュースを飲み干した。「本当にご苦労様でした」と屈託のない笑顔を見せている。だが、彼は篤の違反行為をどう思っているのだろうか?
先ほどのCAがやってきた。
「浜中先生、恐れ入りますが、業務報告を提出しなければなりませんので、ご協力ください。ここに、医療所見と所属病院名・お名前・ご住所・電話番号を記入してください」
浜中が記入している姿を横から見ていた剛田が口を挟んだ。
「CAさん、ここ違っていますよ」
浜中とCAは揃って剛田の顔を見た。
剛田が指さしているのは、日付の欄だった。
『2025年3月31日15時20分』と書かれていた。
「いえ、この時間に浜中先生が診察なさったことは間違いありません」
剛田は笑いながらアップルウオッチを見せた。
「それはロサンゼルス時間でしょ。日本時間なら、2025年4月1日7時20分だよ」
「そうですね。併記します」
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