終わりと最後、そして美しい花

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 ありあまるほどの膨大な時間。  僕はトラソルテオトルから動けない。だからトラソルテオトルが保管する様々な記録を閲覧した。  過去の記録と照らし合わせれば、当初のカイユが正常であるという前提にたてば、カイユは既に静かに狂っていた。ほんの少しずつ、1年が1秒ずつずれていくように何かが少しずつ変化していた。  たくさんの国民と異なるこのカイユの変化はきっと、僕のせいだ。DNAを複製したとしても、キトリの精神というものは、きっとそれぞれの僕によって都度異なる。その小さな変化の発生と消失が、小さなシャボン玉がたくさんぶつかって酸素を動かすように、連鎖的にカイユの何かを変化させていったのだろう。 「キトリは王の仕事をどう思いますか」  カイユはよく、僕にそう尋ねる。いつも通り微笑みながら、僕の頭をなでる。僕にとってカイユはかけがえがない存在だった。カイユにとって今の僕は、これまで100人いた僕と同じようなものだろう。ただ、その仕事として僕の世話をして、僕を慈しみ、そして僕を喪失する。それが繰り返される。 「僕が風を動かさなければ皆死んでしまう、カイユも」 「それは必要な行いでしょうか」  永遠に。  カイユの瞳は何かを僕に伝えることはない。それはカイユの仕事ではなくて、僕の仕事だから。王だけが100年に一度刷新され、正常性と意味と価値を判断する。そのために僕は死んで、そして生まれる。  このたった100人の国では奇妙な共依存が生じていた。王が死ねば毒が吹き込み皆が死ぬ。1人でも欠ければ王は生きていくことができない。  過去の記録で、カイユはこれまで過去の王にこれほど世界の価値を問うことはなかった。きっと小さなアブクが積み重なって、一定を超えたのだろう。 「カイユ。カイユはどうしたい?」 「王の仰せのままに」  時間が先に進むように、終わりのない世界も結局は終わりに導かれているのだろう。つまりこの世界の終わりを柔らかに僕に告げたのはカイユだ。  僕の中で99年の時が経過した。
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