終わりと最後、そして美しい花

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 僕にとって最初の日。  薄らと目を開ければ、カイユが僕を見つめていた。少し浅黒い肌に白く長い美しい髪、そして透き通った浅葱色の瞳は柔らかく光を反射している。 「おはよう、キトリ。私はカイユ、あなたの調整を司ります」 「カイユ?」 「そう。次の百年をよろしく」  カイユはそう告げて、柔らかく僕の頭を撫でた。  何もわからないまま起き上がろうとして思わずよろけると、カイユが僕の体を支える。 「初めて起き上がるのですから、気をつけてくださいね」 「……わかった」  ゆっくりと、足に力をいれる。体に問題はない。立ち上がる力も機能も備わっている。ただ、初めてだから少しバランスを崩してしまっただけだ。  カイユから目を離して、僕は真っ白な卵型の部屋にいることに気がついた。ゆるやかなカーヴを描く直径3メートルほどの部屋の中央には僕が横たわっていた寝台が置かれ、ただ、僕とカイユだけがいた。 「あの、僕は一体……」 「あなたはキトリです。我らが王」  その言葉の意味も僕には全くわからなかった。 「何故僕が王様なの?」 「それはあなたがキトリだからです。まずは食事にしましょう」  最初に飲んだスープはとても優しい味がした。  僕の最初の一日はそんなふうに始まった。  次の日から、教育が始まった。  それは全てについて。僕は王様だから、全てを知らなければならないらしい。カイユの説明はとてもわかりやすく、起きたばかりの僕の頭は冴えていて、カイユの話すこの世界の状況をスポンジが水を吸い取るように吸収することができた。  すなわち。  この世界はかつて毒を撒きちらす隕石が落ち、生物のほぼ全てが死に絶えた。自然のままに放置すれば地球の自転の作用によってたちまち大気に毒が満ちてしまう。この世界のおおよそはすでに、そして現在も毒で満ち溢れ、本来なら生物が生きるのことは困難だ。  この小さな国はトラソルテオトルという機構でバランスを保ち、わずかな人間が生存していた。その毒に科学技術が打ち勝てた範囲でほそぼそと、絶妙な配分によってこの国が成り立っている。  この国の人間はギリギリを生き延びるため、それぞれ役割を担っている。糧を育てる者、それを運び分配する者、そして僕はこの世界の王で、この世界に毒が満ちないよう、世界を観測して調整する。  だから僕にだけ寿命がある。僕だけが生まれて、そして死ぬ。
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