終わりと最後、そして美しい花

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「キトリはこの世界を理解しましたか」 「わからない。でも多分、これ以上は変わらないと思う」  世界は輝かしく美しい。人々は幸福に仕事をこなしている。そしてそれは永遠に続いていく。その中で風を吹かせるのが僕の仕事だ。 「わかりました。ではトラソルテオトルへ」 「うん」  その時、僕は何を考えていたのだろうか。きっと本当に、納得していた。それで良いと思っていた。そしてそれは今も変わらない。  この国の根幹をなすトラソルテオトルの根本には、半ば朽ちた僕が膝を抱えて蹲っていた。  目の前の僕が意識を閉じたのと同時に、次の王、つまり僕が目が覚めるようにプログラムされている。カイユは前の僕を丁寧に抱き抱え、かわりにそこに僕が収まる。ここに入るのは初めてのはずなのに、何故だかとても懐かしい。きっと何千年も交代で入っていた僕の意識が未だここに留まっているのだろう。 「当代のキトリはトラソルテオトルとなることを了承しますか」 「うん」  僕の声で機構はふわりと起動し、僕の意識はこの小さな世界と接続する。次に接続が切れるのは僕が死ぬ時だ。死という概念はすでにこの世界にはない。死ぬのが僕だけだから。  カイユに聞いても死というものの認識は既に困難なようだった。僕が死んでも、新しい僕が起きる。ただそこに一瞬だけ断続が発生するだけで、僕の死も永遠に組み込まれ、全てがつつがなく繰り返される。  ぱきりぱきりと僕の中に世界の情報が入り込む。  この小さな世界の運行、組成、毒の侵食状況、風の動き。トラソルテオトルはこの巨大なビオトープの空調で、風を吹かせて隕石の毒を吹きちらし、その内側に入らないようにする。地球の運動に基づく地殻や地磁気の変動、季節による風の転向、そういったこの国以外の外的要因によってこの世界に毒が入らないよう、注意深く風で調整する。  僕はトラソルテオトルに入る前に見た人々の姿を思い出しながら過ごした。  僕はトラソルテオトルから出ることができない。だから僕と話すのは、僕の世話をするカイユだけだ。動けない僕に食事を運び、体を拭き、話をする。時間だけは膨大で、カイユと様々な話をして、一緒に図書データを閲覧した。  この国の全ては王のために動いている。カイユたちは光合成でエネルギーを得て、わずかにハーブを嗜む程度で、この国で育てられる糧は全て王が食べ、この国で作られる物資はすべて王の生活に費やされる。つまりこの国の作用は全て王の生存のために運航されている。
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