0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
薫のお父さんがいくら念じても元の世界は戻ってこないまま、世界終わりの日を迎えてしまう。
「最後の晩餐だね」
「母さん、なんでステーキ三枚用意していたんだろう」
「決まってるでしょ。お父さんが戻ってきた時のためにだよ。薫ってさ、国語できないでしょ」
「国語なんか勉強して意味あんの?」
「わかってないなあ。ステーキ三枚用意されていたって、感動的なくだりだよ」
「どこが?」
「世界終わりの日を、帰ってくるかもわからないお父さんと迎えたいという思いがこの三枚のステーキに込められてるんだよ」
「そーゆーことね。で、それをあんたが食べるわけ?」
「恐縮ですが、ここの子にさせてもらったから、いいですか、お父さん」
「もちろんだよ。母さんの思いをわかってくれる、君は素晴らしい子だ」
「父さん、父さんの子はこっちなんですけど。それにしても沙彩の適応能力すごいね」
「最後の晩餐、いただきます」
「ステーキなんて久々に食べたよ」
「美味しかった」
私は薫の隣で寝た。
「世界ってどうやって終わるんだろう」
「寝てる間に私たち死んでるのかな」
「苦しくないといいな」
「ね、手繋いでねよ」
「薫ってお子様だね」そう言いながら薫の手を握った。
「沙彩は怖くないの?」
「う〜ん、少しは怖いよ。でも、これから別の何かが始まるんじゃないかな
」
「あんたとは考え方の次元が違うわ」
「そうそう4次元のポケットに入ったら、元の世界のみんなにまた会えるかもしれないし」
「それってアニメの話?」
「違う。バミューダ海域の魔のトライアングルって知らない?」
「テレビで見たことある。船ごといなくなっちゃったんでしょ」
「私が思うに、あれは4次元の隙間に落っこちちゃったんじゃないかな」
「そこでまだ生きてるの?」
「まあ、古い話だから生きてるかわからないけど、だから、この世界が終わって、違う世界とか次元とかに移動する日って捉えてるよ」
私も本当は怖くて仕方ないのに、強がっていた。そうやって自分を騙さないとこの日を乗り越えられない気がした。
そのまま眠りについた。
最初のコメントを投稿しよう!