薄紅色の絵の具で

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 あの山桜はもう、花も葉もつけていなかった。 枝だけを空に伸ばす木に、俺は語りかけた。 「おじいちゃんの葬式、さっき終わったんだ」  最後の力で花を咲かせたあの日から、ユキさんは姿を現さなくなった。  関わりたくなかった妖怪相手に、俺は初めて寂しさのようなものを覚える。 「これ、セイジロウさんからあなたに。あのあと、自分で色をつけたんだよ」  俺はキャンバスボードに掛けていた布をとった。  そこには、鮮やかに咲き誇る山桜と、薄紅色の髪をなびかせるユキさんが微笑んでいた。  一陣の突風が吹いて、残っていた桜の花びらが一枚、空へと舞い上がる。 「あ」  手の中から絵がなくなっていた。  風が吹いた時、かすかに感謝の言葉が聞こえた気がした。
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