薄紅色の絵の具で

3/13
前へ
/13ページ
次へ
 公園に到着すると、どこもブルーシートだらけで、空いている場所は見当たらない。  営業部の先輩と合流した俺は、営業部長から指示された穴場らしき場所に向かった。 「ここですかね?」 「そうね」  目の前には大きな山桜が一本生えている。  たしかに人もいないし、穴場ではあるが……。 「全然咲いてないですね」 「残念ね」 「酒が飲めれば何でもいいんでしょ」  女性の先輩たちはそう言って、さっさとシートを敷き始めた。 「満開だったらよかったのにね」 「そうですね」  一応、同意する。本当はそこまで桜を綺麗だと思ったことはないけど。  山桜の周囲にシートを敷いていると、背後に視線を感じて振り返る。  木の幹のそばに、白い着物姿の女が立っていた。  女は目を見開いて、こちらを凝視している。 「ひい!?」 「何!?」  先輩たちがあわてて振り返る。 「あ、いえ、でっかい虫がいて」 「何だ、驚かせないでよ」  彼女たちは作業に戻ったが、俺のほうを気にしながら声をひそめて言った。 「本社でも挙動不審だったらしいよ」 「だからウチに来たとかじゃないよね」  俺は聞こえないふりをしながらシートを敷いた。  その間もずっと、女の視線を感じていた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加