薄紅色の絵の具で

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 病院に到着すると、ユキさんは物珍しそうに周囲を見回した。 「セイジロウは体調が悪いのか?」 「風邪をこじらせて入院してる。今は回復してるけど」 「そうか……」 「おじいちゃん、実の娘や孫のこと、覚えてないんだ。あなたに会っても、わからないかもしれない」  悲しそうにするかと思ったが、ユキさんは意外と平然としていた。 「いいさ。どちらにしろ、向こうは私が見えない」 「え? でもさっき」 「セイジロウは私が見えなくなったんだよ。幽霊も、妖怪もな」 「見えなくなった……」 「もしかしたらお前も、いつか見えなくなるかもしれないぞ」  ユキさんはそう言って目を細めた。  そんな日が来るだろうか。こんな生きづらい日々から解放される日が……。 「着いたよ」  個室の扉を開けると、窓の外を眺めていたおじいちゃんが俺を見て顔をしかめた。ずきっと胸の奥に痛みが走る。 「誰だ」 「あなたの孫です」 「孫などいない!」  激しく拒絶される度に、優しかったおじいちゃんはもういないのだと、無性に泣きたくなる。  だから来たくなかったのに。 「こら、せっかく孫が会いに来てくれたのに、そんな言い方をするな!」  俺をかばうように怒ってくれたのは、ユキさんだった。 「今度孫が生まれると、嬉しそうに報告してくれたじゃないか」 「出て行け! 俺の財布を盗んだのはお前だろう!」 「おお、大きな声だ。案外元気そうじゃないか! 最近姿を見ないので心配したんだぞ」  おじいちゃんは、楽しそうに話しかけるユキさんに気づかず、孫を怒鳴りつけている。  感動的な再会にしては、ひどく虚しい光景だった。  見ていられなくて、俺はうつむいて足元を見つめていた。
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