薄紅色の絵の具で

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「セイジロウに会わせてくれてありがとう」 「いや……」  あれは会ったと言えるのだろうか。嬉しそうなユキさんを見ていると、それ以上何も言えなかった。 「これで未練はないよ」 「未練って」 「全然花を咲かせていなかっただろう? 寿命なんだよ」 「え?」  ユキさんは俺を見て困ったように笑った。 「そんな顔をするな、二百年も生きたのだからじゅうぶんだ。お前は優しい子だね」  ふわっと頭をなでられる。妖怪だからなのか、寿命なのか、とても冷たい手だ。 「それに、セイジロウは約束を守ってくれたからな」 「約束?」 「ほら、あの絵だ。セイジロウは私の絵を描いてくれると約束してくれたのだ」 「どうしてあなたの絵を?」 「それは」  ユキさんはなぜか恥ずかしそうに視線をそらした。 「私は鏡に映らない。だから、私の姿を見せてほしいと頼んだのだ」 「なるほど」  約束を守ってくれたと言うが、色も塗られていないし、あの絵は未完成に見えた。  なぜ完成させなかったのだろう。 「さあ、そろそろ山桜に戻ろうかな」 「もうすこし、ここにいてもいいんじゃないか?」 「ん?」  一方的な再会も、未完成の絵も、色々納得できなくて、俺は思わず引きとめていた。 「またおじいちゃんのお見舞いに行くつもりだし、あなたさえよければ、ここにいてもいいんじゃないか」 「いいのか? 迷惑じゃないなら、取り憑かせてほしい!」 「言い方……まあいいけど」  こうして、妖怪との奇妙な生活が始まった。
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