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暫くすると、カフェの扉を勢いよく開いて、小さな影が飛び込んで来た。
「万吉先生!」
「こんなところにいたー!」
「万吉先生、アスレチックに来てください!」
恭四郎たちは、目を輝かせて万吉を見上げる。
「アスレチック?」
「みんなで万吉先生のお誕生日をお祝いするんです!」
と恭四郎が言うと、幸仁と澪は、「あー!」と大袈裟な声を上げた。
「ばか! それは内緒だったろ!」
「ここで言ったら、サプライズにならないじゃん!」
「ご、ごめん……」
幸仁は分かりやすい溜息をついてから、渋々というように、万吉の方を向き直った。
「せっかく先生が来たのに、歓迎会してなかっただろ? 診療所も始まって、先生が忙しそうで、タイミング逃しちゃったのを、父ちゃんが気にしてたんだ」
「だから、それも一緒ってことでね! 万吉先生、改めてよろしくね!」
「……俺の方こそ」
万吉はそう言って、不器用に微笑んだ。
「ほら! 行こう! みんな待ってるよ!」
「今度はかくれんぼして遊ぼうぜ!」
「アスレチックもいっぱい飾りつけしたんですよ! 万吉先生も驚くと……あっ」
「恭四郎はもう余計なこと言うな!」
嵐のような彼らが去って、急に静寂が戻った。吾郎が捲った新聞のページが空気を切る。
「いいの? 行かなくて」
「いいんだよ。町長さんの意向なんだからね。お化けの僕が行っちゃ、興ざめだよ」
「それに、」と続け、一はテーブル席を振り返る。「僕らはこっちで、万ちゃんを祝わなくちゃいけないからね」
テーブル席には、ホールケーキと向かい合うように、蓋を開いたままのコンパクトが置かれている。そして、フォークを握って豪快にケーキを頬張る、万吉の姿があった。
「誕生日おめでとう、万ちゃん」
「おう!」
「これからも、あの不貞腐れ王子を宜しくね」
彼は口の端に、入りきらなかったクリームをいっぱい付けて、にんまり笑って言った。
「もちのろん!」
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