1.宇津美万吉の憂鬱

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 遠くで、人の声が聞こえた。  暗闇の中、その声を頼りに、ゆっくり目を開ける、たちまち、眩しい光が視界を包みこんだ。 「気が付いたあ!」  次に飛びこんできたのは、見知らぬ少年の顔だった。 「大丈夫? おじさん?」  少年の表情と言葉をはっきり捉えることができるようになると、僅かに口を動かすことができるようになった。 「……君は」 「僕は結城(ゆうき) (あさひ)! 名探偵の一番弟子だよ!」  高らかに響いたその声が耳をつんざき、万吉は顔を顰める。 「ここは……どこだ?」 「探偵事務所だよ、キンダイチのね」  すると、扉が開く音の後に、誰かの足音が近づいてくる。 「おっ、良かった。目を覚ましたんだね」  そのとき、ぼんやりしていたはずの頭が、突然動きを取り戻した。  その声には、間違いなく聞き覚えがあった。もう二度と聞くことができないと思っていた、あの声にそっくりじゃないか。  ……そっくり? いや寧ろ…… 「よっ、元気してた?」  万吉の顔を覗き込んで、にっこり微笑むのは、紛れもなく、二年前に死んだはずの親友、金田一だった。
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