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「……俺、死んだの?」
開口一番、放った言葉はそれだった。寝かされていたソファの傍に置かれたテーブルの上、菊の花が花瓶に生けられている。恐らく自分が持ってきたであろうそれが、やけに不吉に見えた。
ところが、一は軽く笑ってから言った。
「死んじゃいないよ。死んでたら、頭から血は出ないと思うぞ?」
確かに万吉の額には、大きな絆創膏が貼られていた。
「ぶつけたってより、切ったって感じだね。多分自転車のペダルの辺りで。とりあえず安心しなよ、先生?」
からかうように言われて、万吉は思わず目を逸らした。聞かなかったことにしようとしたが、一の言葉に食いついたのは旭だった。
「先生? おじさん、先生なの?」
「この人は、僕の高校時代の友達なんだ。宇津美万吉。お医者さんなんだよ」
「じゃ、キンダイチと同い年?」
「そう。だから『おじさん』なんて言っちゃ駄目だよ」
二人の会話をぼーっと聞いていた万吉だったが、何か引っかかるものを感じていた。
すると、旭が一の耳元へ、わざと聞こえるような小声で言う。
「お医者さんが怪我するなんて、おかしな話だねえ?」
その声色に、万吉は声を上げた。
「お前! あのとき俺にちょっかい出してきた!」
墓の前で手を合わせたときに傍で聞こえた、不気味な一言。紛れもなくその声だったのだ。
案の定、正体は旭だったようで、彼はまた面白そうに大きな笑い声を上げた。
「この人、ほんとは幽霊が見えてるのに、見えてないふりしてたんだぜ! そんなのふりだって、みんな分かってたよ! それで僕が悪戯したら、この人、すたすたーって逃げてって!」
「お前のせいでこんなことに!」
「でも、僕のお陰で、会えただろ?」
はっとして、万吉は一を見やった。確かにそこには、生きていた頃と全く変わらない、親友の姿がある。
「本当に……一なのか?」
「ご覧の通りさ」
と一は微笑んだ。
「僕も死んだときはびっくりしたけどね。案外生きてたときと変わんないなあって」
その言葉通り、彼の様子は生前と全く変わらなかった。それは学生時代とおんなじように、へらへら笑って、なんの心配もないふうにそこにいた。
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