1.宇津美万吉の憂鬱

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 吾郎は草葉の陰からその様子を窺っていたが、小さな溜息を一つつくと、そっと立ち上がり踵を返した。 「探しましたよ」 「うわあっ!」  振り返った吾郎の目の前には、一が立っていた。 「おどかすな! 心臓に悪い!」 「動いてないですよ、もう」 「うるさい!」  驚きの勢いもあってか、吾郎の語気は強い。この気難しそうな老人が、いつ取り返しのつかないほどに怒り狂うかと思うと、万吉は気が気でなかった。 「一体なんなんだ! ほっといてくれ!」 「僕は、佐々野さんのお力になりたいだけなんですよ」 「やかましい! お前たちの探偵ごっこに付き合うほど、私は暇じゃない!」  吾郎は荷物を抱えると、一と万吉の間を乱暴に掻き分けて、ずかずかと来た道を戻り始めた。 「佐々野さん!」 と一が叫んだが、当然吾郎は足を止めない。一は構わず続けた。 「僕が聞きたいのは、落ち武者さんのことなんです!」  次の瞬間、吾郎の足がぴたりと止まった。 「この先に祠がありますよね?」 「……もう壊されていたけどな」 「あそこに落ち武者がいたんでしょう?」 「……もういなかったけどな」 「佐々野さん、その方と仲が良かったんですよね」 「……ああ」  吾郎の言葉には、段々と覇気がなくなってきている。 「一週間ぶりに来てみたら、この有様だ」  元則が工事を始めた時期と重なる、と万吉は思い出した。 「良かったら、お話聞かせてもらえませんか?」  一はゆっくりと言った。吾郎は黙り込んでいたが、暫くすると、全身に込めていた力を抜くように、長い溜息をついた。 「仲がいいと言ってもな、ほんの最近のことだ」
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