5人が本棚に入れています
本棚に追加
吾郎は草葉の陰からその様子を窺っていたが、小さな溜息を一つつくと、そっと立ち上がり踵を返した。
「探しましたよ」
「うわあっ!」
振り返った吾郎の目の前には、一が立っていた。
「おどかすな! 心臓に悪い!」
「動いてないですよ、もう」
「うるさい!」
驚きの勢いもあってか、吾郎の語気は強い。この気難しそうな老人が、いつ取り返しのつかないほどに怒り狂うかと思うと、万吉は気が気でなかった。
「一体なんなんだ! ほっといてくれ!」
「僕は、佐々野さんのお力になりたいだけなんですよ」
「やかましい! お前たちの探偵ごっこに付き合うほど、私は暇じゃない!」
吾郎は荷物を抱えると、一と万吉の間を乱暴に掻き分けて、ずかずかと来た道を戻り始めた。
「佐々野さん!」
と一が叫んだが、当然吾郎は足を止めない。一は構わず続けた。
「僕が聞きたいのは、落ち武者さんのことなんです!」
次の瞬間、吾郎の足がぴたりと止まった。
「この先に祠がありますよね?」
「……もう壊されていたけどな」
「あそこに落ち武者がいたんでしょう?」
「……もういなかったけどな」
「佐々野さん、その方と仲が良かったんですよね」
「……ああ」
吾郎の言葉には、段々と覇気がなくなってきている。
「一週間ぶりに来てみたら、この有様だ」
元則が工事を始めた時期と重なる、と万吉は思い出した。
「良かったら、お話聞かせてもらえませんか?」
一はゆっくりと言った。吾郎は黙り込んでいたが、暫くすると、全身に込めていた力を抜くように、長い溜息をついた。
「仲がいいと言ってもな、ほんの最近のことだ」
最初のコメントを投稿しよう!