5人が本棚に入れています
本棚に追加
そこまで話すと、吾郎はとうとうしょんぼりして、身体を小さくして俯いた。
「そう落ち込むなって、お爺ちゃん!」
旭はそう叫んで、吾郎の肩をぽんと叩いた。
「その落ち武者がどこにいるか、もう分かってるんだ!」
「なに?」
と吾郎の顔がぱっと上がり、旭は彼に向かって自慢げに笑顔を見せた。
「その落ち武者は、そこで働いてる大工さんに憑りついてるんだよ!」
旭が指を差し、同時に吾郎がその指先を振り返る。
元則は、仲間たちと弁当を囲んで談笑している。
行儀悪く地面に胡坐をかくその腰には、なんの影もなかった。
「いないじゃないか!」
「あれえ?」
「馬鹿にしおって、このサル!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 万吉先生! 話が違うじゃん!」
「いや、俺に言われても……」
遂に吾郎の鋭い視線がこちらへ向いたので、万吉は助けを求めて一を振り返った。
「佐々野さん」
彼一人がやけに落ち着いていて、優しく吾郎の名前を呼んだ。
「もしでしたら、僕たちが落ち武者さん、探しましょうか?」
「えっ?」
吾郎の声と万吉の声が重なった。
「誤解を解きたいですよね? 約束破ったみたいで、心地悪いでしょう」
「……お前にできるのか?」
「ええ、心当たりはあるんです。ね? 万ちゃん」
「お前まさか……」
と万吉がこぼしたのを差し置いて、一は続ける。
「この人は、僕の親友の宇津美万吉。お医者さんなんです。落ち武者さんを見たそうですよ」
「本当か?」
吾郎の表情が明るくなったように見えた。万吉は一人動揺しながらも、取りあえず頷く。
「よーし、じゃ、万ちゃんにも手伝ってもらわなくっちゃ!」
ところがその頷きを、一は都合よく解釈したようだった。
「ちょ、ちょっと待て!」
と万吉は声を上げた。
「俺は落ち武者の話をしただけだ! 別に、探してくれとは頼んでない!」
一はきょとんとして、万吉を見つめて言った。
「でも、落ち武者さんには、ゲンさんから離れて欲しいだろう?」
「そうだけど、もう離れてるみたいだし……」
「それにほら、佐々野さんに会わせてあげたいじゃん」
万吉は踵を返して歩き出した。「どこ行くのさ、先生!」と旭の声が響いたが、足を止めない。
なんだよ、一。お前は俺の親友だろ? 俺がお化けに絡まれることがどんなに嫌なことか、知ってるはずじゃないか。
「もう! 男らしくないぞ!」
すると、背後で旭の怒鳴り声がした。もう追いつかれたらしい。いよいよ走り出そうとした、そのときだった。
「もういいよ! 僕がやるから!」
どんっ、と背中に衝撃があったかと思うと、次の瞬間、万吉の視界は真っ暗になった。
最初のコメントを投稿しよう!