1.宇津美万吉の憂鬱

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 そこまで話すと、吾郎はとうとうしょんぼりして、身体を小さくして俯いた。 「そう落ち込むなって、お爺ちゃん!」  旭はそう叫んで、吾郎の肩をぽんと叩いた。 「その落ち武者がどこにいるか、もう分かってるんだ!」 「なに?」 と吾郎の顔がぱっと上がり、旭は彼に向かって自慢げに笑顔を見せた。 「その落ち武者は、そこで働いてる大工さんに憑りついてるんだよ!」  旭が指を差し、同時に吾郎がその指先を振り返る。  元則は、仲間たちと弁当を囲んで談笑している。 行儀悪く地面に胡坐をかくその腰には、なんの影もなかった。 「いないじゃないか!」 「あれえ?」 「馬鹿にしおって、このサル!」 「ちょ、ちょっと待ってよ! 万吉先生! 話が違うじゃん!」 「いや、俺に言われても……」  遂に吾郎の鋭い視線がこちらへ向いたので、万吉は助けを求めて一を振り返った。 「佐々野さん」  彼一人がやけに落ち着いていて、優しく吾郎の名前を呼んだ。 「もしでしたら、僕たちが落ち武者さん、探しましょうか?」 「えっ?」  吾郎の声と万吉の声が重なった。 「誤解を解きたいですよね? 約束破ったみたいで、心地悪いでしょう」 「……お前にできるのか?」 「ええ、心当たりはあるんです。ね? 万ちゃん」 「お前まさか……」 と万吉がこぼしたのを差し置いて、一は続ける。 「この人は、僕の親友の宇津美万吉。お医者さんなんです。落ち武者さんを見たそうですよ」 「本当か?」  吾郎の表情が明るくなったように見えた。万吉は一人動揺しながらも、取りあえず頷く。 「よーし、じゃ、万ちゃんにも手伝ってもらわなくっちゃ!」  ところがその頷きを、一は都合よく解釈したようだった。 「ちょ、ちょっと待て!」 と万吉は声を上げた。 「俺は落ち武者の話をしただけだ! 別に、探してくれとは頼んでない!」  一はきょとんとして、万吉を見つめて言った。 「でも、落ち武者さんには、ゲンさんから離れて欲しいだろう?」 「そうだけど、もう離れてるみたいだし……」 「それにほら、佐々野さんに会わせてあげたいじゃん」  万吉は踵を返して歩き出した。「どこ行くのさ、先生!」と旭の声が響いたが、足を止めない。  なんだよ、一。お前は俺の親友だろ? 俺がお化けに絡まれることがどんなに嫌なことか、知ってるはずじゃないか。 「もう! 男らしくないぞ!」  すると、背後で旭の怒鳴り声がした。もう追いつかれたらしい。いよいよ走り出そうとした、そのときだった。 「もういいよ! 僕がやるから!」  どんっ、と背中に衝撃があったかと思うと、次の瞬間、万吉の視界は真っ暗になった。
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