1.宇津美万吉の憂鬱

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「こーんにーちわっ!」  大きな声で挨拶をすると、談笑していた大工たちは、ぎょっとした顔で振り返った。 「ゲンさん、いるう?」 「ああ、俺だが……どうしたんだ、お医者先生?」  草むらから突然姿を現した万吉に、元則は首を傾げて言った。 「ちょっと聞きたいことがあってさ。腰が痛くなくなったのって、いつ頃からかなあ?」 「そりゃあ、あんたんとこ行って、家帰って薬飲んだら……その日の夜には、もう平気になったなあ」 「そっかあ!」 と万吉は満足そうににっこり笑うと、こんなことを尋ねる。 「今日、ゲンさん家に行ってもいーい?」 「別に構わねえが、なんでまた……」 「また急に腰が痛くなったら困るでしょー? 終わったら声かけてね! じゃ!」 と片手を挙げ、万吉はまた草むらに飛び込んで、姿を消してしまった。まるで嵐が去った後のように、大工たちは呆然としていた。 「……新しいお医者って、随分明るい方なんですねえ」 「まあ、愛想がないよりいいですけど……」 「明るいっていうより、子どもっぽいっていうか……」 「うーん……俺が行ったときにゃ、一回も目え合わせられなかったけどなあ」
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